300万貯めた35歳自営業女性「老後の備えにどの制度を選べば?」4つの制度を比較&解説

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、35歳、自営業の女性。ある程度まとまった金額が貯まった相談者。老後のための積み立て運用を考えていますが、自営業者にとってどの制度が有利なのか知りたいとのこと。FPの秋山芳生氏がお答えします。

ここ数年で家計管理や貯蓄に取り組み出しました。緊急事態の時や冠婚葬祭用に特別費・防衛費に100万、将来の老後資金のための貯蓄が200万になったので、つみたてNISAとiDeCoを始めてみたいのですが、何から始めたら良いのか解りません。そもそも、個人事業主のため収入が不安定なのでNISAやiDeCoはやめたほうが良いのかなと不安です。

現在将来のためにやっているのは、自営業者向けの小規模企業共済で毎月5,000円を積み立てています。小規模企業共済についても、もう少し積立額を上げたいと思いつつ、収入が不安定のため5,000円のままです。

会社員向けの家計管理のアドバイスは良くありますが、個人事業主・フリーランス向けのアドバイス記事などあまり無く、何かを参考にすることも難しく判断ができません。個人年金など他にも色々ありますが、どれをやれば良いか解りません。

このまま小規模企業共済の金額をアップするか、それともつみたてNISAなどを始めたほうが良いのか、アドバイス頂けたら嬉しいです。投資なども興味があるのですが、いくらくらい貯蓄に余裕ができたら始めれば良いでしょうか?

収入金額と貯蓄は平均額で毎月ばらつきがあります。過去1年分を12カ月で割りました。

よろしくお願いいたします。

【相談者プロフィール】

・女性、35歳、自営業、独身

・同居家族について:弟(無職)

・住居の形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:30万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:0円

・毎月の世帯の支出の目安:17万円

・住居費:9万2,000円

・食費:3万2,000円

・水道光熱費:1万5,000円

・通信費:8,000円

・お小遣い:1万円

・その他:1万2,000円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:9万円

・現在の貯蓄総額:300万円

・現在の投資総額:5,000円(小規模企業共済です)

・現在の負債総額:0円

・老後資金:国民年金月1万6,000円、退職金無し、小規模企業共済に月5,000円


秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。個人事業主で、将来の資産形成をどうするべきかという相談ですね。個人事業主の方は、厚生年金が無いため退職後は基礎年金+貯蓄の切り崩しで生活することになります。どのように準備するのがよいのか、家計状況や、各制度も含めて一緒に考えていきましょう。

無駄遣いの少ない優秀な家計!

まず家計についてですが、支出はかなりコントロールできていると思います。手取り30万円で平均9万円/月の黒字になっているのは無駄遣いの少ない状態でしょう。

無職の弟さんが同居しているので、生活費用は二人分だとすると食費もセーブできていますし、光熱費や通信費も高すぎるということはないでしょう。通信費の8,000円については、家にWi-fiを引いていて、二人分のスマホ代も払っているということであれば節約出来ていると思います。二人分はなく、一人分のスマホ代で8,000円であれば格安スマホなどに変えるなどで3,000円以下にできるかもしれません。

自営業者の生活防衛費はいくら?

余剰資金をどのくらい運用に回せるかは、生活費と生活防衛費の金額から割り出せます。

基本的な考え方は、日々の生活費の1.5カ月分を、生活費用の口座に入れておきます。そうすれば急な出費にも対応が可能です。

その上で生活防衛費を現金で貯金します。このお金は滅多なことでは手を付けない貯蓄と考えてください。サラリーマン場合は6カ月分が目安になります。サラリーマンは、働けなくなった場合でも傷病手当が出て、それまでの給料の2/3どの金額を受け取ることができます。そのため6カ月分の生活防衛費があれば、残りの1/3をそこから補填しても生活費を変えずに1年半は生活を守れるので、人生設計を立て直しやすくなります。

ご相談者さまは個人事業主なので傷病手当がありません。生活防衛費は10〜20カ月は備えておきたいところです。一つの目安として12カ月分の生活費を生活防衛費として貯められると良いと思います。現在生活費は21万円ですので、12カ月分の生活費は252万円になります。

ご相談者さまの場合は、300万円の貯蓄がありますので、300万−252万円=48万円は運用に回してもよいでしょう。

個人事業主が利用できる制度

では、48万円の余剰金と、平均9万円/月の黒字を資産形成に回すにあたり、どのような制度を利用していけばいいかを考えていきましょう。

個人事業主のご相談者さまが考えられる税制優遇制度は以下のとおりです。
1)小規模企業共済制度
2)国民年金基金
3)iDeCo(個人型確定拠出年金)
4)つみたてNISA

1)小規模企業共済制度

中小機構が運営する、小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための積立による退職金制度です。掛金は1,000円から7万までの範囲内(500円単位)で自由に選択することができます。掛金全額を所得控除できるので、節税効果があります。また、受け取り時も、一括で受け取れば退職所得扱いに、分割受取りの場合でも公的年金などの雑所得扱いになるので税制メリットがあります。また、0.9%や1.5%と低金利の貸付制度を利用できるので、事業資金が厳しくなれば掛金の範囲内で借りることができます。

デメリットには、12カ月未満の掛け捨てリスクがあります。積み立てた共済金は、個人事業主を辞めたり、法人が解散した時に受け取ることができます。ただし、小規模企業共済には元本保証がないので、途中解約しても掛けた月数によっては満額返金されなかったり、掛け捨てになったりすることがあります。そして加入期間が20年未満の場合は、元本割れしてしまいます。また、掛金を加入期間中に増額したり減らしたりすると掛金の区分が変わり、解約時に解約手当金が掛金の合計を下回ることがあるので注意が必要です。

2)国民年金基金

国民年金基金は、自営業者向けの国民年金の上乗せ制度です。イメージでは会社員の厚生年金にあたる制度ですね。毎月掛金を掛けることになりますが、将来の年金を増やすことができます。こちらも、掛金を全額所得控除にできます。月の掛金の上限は6万8,000円で、後述のiDeCo(個人型確定拠出年金)と合わせての上限になります。

国民年金基金は「口数」で購入することになり、金額調整は口数単位でしかすることができません。7種類の「給付の型」が用意されていて自由に選ぶことができますが、長寿化が進んでいますので、終身年金のA型、B型を選択することをお薦めします。A型は65歳から一生年金を受け取れますが、もし途中で亡くなっても10年や15年間分の保険金が保障されるので、遺族が一時金としてお金を受け取れます。B型は、65歳から年金をもらえるのはA型と同様ですが、早くに亡くなっても遺族に一時金は出ません。この他、確定年金のような終身でなく、保証期間が決まっているものもあります。いずれも年齢によっても一口あたりの掛金が異なるなど、複雑な部分もありますので、詳しくは直接国民年金基金にお問い合わせください。

メリットは、A型・B型は終身年金なので、長生きすると得するということです。例えばB型に35歳4ヶ月の方が7口加入したとすると、1口目1万1,340円+6口計2万2,680円=3万4,020円が月額金額になり、60歳到達の前月までの掛金は1,006万9,920円となります。65歳以降でもらえる金額は、年額55万7,900円が想定年金になりますので、ざっくり84歳まで生きれば元をとれることになります。女性は長生きの方が増えていますので、仮に95歳まで生きると受け取り額は1,673万7,000円となり、600万円以上得する計算です。

デメリットは、基本的に掛け始めると個人事業主である間は辞められないということがあります。ただし口数を減らすこともできますし、一時的に支払いをストップすることもでき、2年以内なら追納することも可能なので、フレキシブルな対応は可能です。

3)iDeCo(個人型確定拠出年金)

こちらも掛金の全額が所得控除され、掛金の上限は国民年金基金と合わせて6万8,000円です。自分で投資対象を選ぶことで運用することができ、運用益にも税金がかかりません。仮に先の国民年金基金と同額の3万4,020円を、35歳4カ月から60歳になるまで複利5%で運用できたとすると1,979万400円となります。3%でも1,488万7,164円になります。自分で投資対象を考えて運用をしてみたい場合は、国民年金基金よりも貰う金額を増やせる可能性もあります。増えた利益についても、60歳以降で一括で受け取れば退職所得控除の対象になり税金を抑えることができます。払うのが厳しくなった場合、途中解約はできませんが、掛金を最低5,000円まで減らすか、支払いを一時的にストップしてもらうことができます。

4)つみたてNISA

こちらは、掛金の所得控除はありません。年間40万円をつみたてNISA口座に積み立てる事が可能です(月になおすと33,333円)。積み立ててから20年間の運用益が非課税になります。

つみたてNISAは制度変更があり、2018〜2038年まで新規積み立て開始ができるルールだったのが、2042年まで延長されました。これにより、合計のつみたて額は800万円から1000万円に拡大しました。これから開始する人も、23年間積み立てることができるので、最大40万円×23年で920万円となります。つみたてNISAは、途中で積み立て金額を変えることも、停止することも、引き出すことも出来るので、どうしても生活が苦しくなったときは、上記の所得控除がある制度に比べると自由度が高いといえます。

どれから始める?

収入が安定せず先々が不安だけれど、投資により運用を行いたいということであれば、まずはつみたてNISAから初めてみてはいかがでしょうか。その上で、生活防衛費を担保し、大きく使う予定がないようであれば、上記の税制優遇制度を活用してみると良いでしょう。所得控除は、仮に200万円の所得の場合、所得税10%と住民税10%ですので、掛金が年60万円だとすると12万円の節税が可能です。

どの制度でなければならないということもありません。どの制度も長期の積み立てが前提になり、老後を見据えたものになります。例えば引越し費用や、車の購入、結婚、旅行など直近で大きな支出の必要があれば、その分は制度活用せず、生活防衛費+αの現金としてお金を持っておきたいところです。

また、無職で同居の弟さんがいらっしゃいますね。どのような事情かわかりませんが、弟さんの生活も見ていくということであれば、ご相談者さま自身が自己投資をして稼ぐ力を上げるという選択肢や、弟さんの自立に向けた投資をするという選択肢もあります。

どのような人生にしたいのか、何が重要かによって制度を活用するべきかも変わってきます。制度を理解の上、必要に応じて使いこなして頂ければと思います。以上、参考になれば幸いです。

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