3密だけでは伝わらない! 正しい感染対策を知ろう 「想定内」のはずの拡大に対応できない現状を憂う

By 西澤真理子

新型コロナウイルス対策で警戒度が「赤信号」に引き上げられてから初の週末を迎えた大阪・新世界=12月5日

 新型コロナウイルスの第3波が到来した。首都圏の病院や介護施設、障がい者の福祉作業所などでクラスターが起きている。大阪府では非常事態を示す「赤信号」を灯し、不要不急の外出自粛、飲食店の時短営業要請を出した。この対応に「店では消毒とマスクを徹底している。これ以上どうしたらよいのか」と落胆の声が相次ぐ。春先からこの冬場の流行は想定されていた。にもかかわらず、その場限りの対応で正確な感染症対策が伝わっていない。ウイルスと共生しつつ経済を回すという、リスク低減のためのリスク管理が不全を起こしている現状とその対策をお伝えしたい。(リスク管理・コミュニケーションコンサルタント=西澤真理子)

 ▽ざっぱくで非現実的な提言

 東京では、小池百合子都知事が「まだ打てる手がある」と自粛要請には及んではいない。政府でも西村康稔経済再生担当相は「基本的な感染対策であるマスクをお願いしたい」と発言。政府の分科会は、複数の飲食の際に「会話時にはなるべくマスク着用」「コップやはしを使いまわさない」ことや、外出時には「車やバスの移動中もマスク着用」を提案している。

都庁で定例記者会見をする東京都の小池百合子知事=12月4日

 これらの提言は間違いとは言えない。が、ざっぱくか、非現実的。正確な対策が伝えられていない。

 今必要なのは、「どんな打てる手があるか」を、分かりやすく、伝わるように示すことだ。このことこそが、飲食店に自粛を求め、経済的な困窮・リスクを生まないための対策ではないのだろうか。

 ▽飲食店の対策に適したマスクは?

 例えば、あごの下に隙間のある透明なプラスチックのマウスシールドを調理時や飲食提供時に用いることは飛まつ対策としては間違っている。テレビ番組で、マウスシールドで料理しているのは誤用ということになる。マスクを使う必要がある。

 マスクにも種類があり、効果は異なることに注意が必要だ。ポリウレタン、布、不織布といった素材の違いにより、飛まつ(つばや唾液)、それよりもはるかに小さいエアロゾルの拡散の仕方はそれぞれ違う。飲食店での調理時や接客時(会話が伴う場合)、互いが顔を合わせ、1メートルも離れられない近い距離で会話する場面で唯一使えるのは、飛まつを通さない不織布マスクである。これはBS-TBSの番組内で行った実験の結果をYouTube(https://youtu.be/BeHChATINdA)で視聴できる。

 飲食時のマスク着用はコミュニケーション上極めて不自然で、さらに、かえってマスクに触れる機会が増え、科学的にも逆効果なのではないかとの疑問もある。

飲食店で感染対策について話す岩室医師(手前)=横浜市青葉区

 ▽進んでいない感染対策への理解

 筆者は、6月に「夜の街応援!プロジェクト」を始めた。バーや居酒屋、飲食店、ホストクラブを皮切りに、12月現在、感染リスクの高い高齢者施設や障害者施設で感染症の無料予防レッスンを感染症予防医の岩室紳也氏と続けている。

 岩室医師によると、感染対策の基本は4つ。①エアルゾル対策(空気の流れを作る)②飛まつ感染予防(マスクやソーシャルディスタンスによる咳・会話エチケット)③接触・媒介物感染対策(手洗いや手指消毒)④唾液感染対策(キスエチケット)だ。詳しくは、無料でダウンロードできるハンドブックにまとめられているため参照されたい(URL夜の街応援!プロジェクト』ホームページhttps://yorunomachiouen.wordpress.com/)。

 これまで60余りの施設を回った。が、換気、マスクの意味や手洗い、アルコール消毒のタイミングなどを行く先々でお伝えするたびに、「目からうろこ」と言われる。

 レッスン先に行くと、入り口で検温や手の消毒を要求される。店員全員がマスクをしていて、客席やレジ回りにはアクリル板を設置。窓や入り口のドアを多数開け、高額な空気清浄機、加湿機を導入している。「感染対策は万全」とやや過信しているケースもある。

 しかし、レッスンを通して分かるのは、あいまいな知識による対策しかなされていないこと。これにはこちらがびっくりする。緊急事態宣言が出て慌てた春先から知識がほとんどアップデートされておらず、正確な対策が共有されていないことを実感する。

 ▽まずは知っておくべきこと

 【手洗い後の蛇口に注意】手洗いした後でも(不要な)アルコール消毒を頻繁にすることが散見される。石鹸で手洗いし、蛇口をその後に触らないのであればアルコール消毒は意味がない。逆に、認知症の方や知的障害のある方に手洗いを徹底させる割に、手洗い後に蛇口をひねってしまうのであれば、アルコール消毒だけに絞った方がいい。

 【検温は過信しない】検温も、平熱でも陽性の人がいるから過信できない。また明らかに高熱であれば別だが、人によって平熱が異なることも加味していない。

 【食事中はスマホを触らない】箸を使わない飲食にはリスク意識が薄い。消毒しない指でパンやポテトフライを食べているケースも見かける。さまざまなところを触っている指で操作したスマホを見ながら軽食やお菓子をつまむことは、感染症を考えたらリスクの高い行為だ。

 【現金は汚れていると考える】現金の受け渡しにも不思議なマナーがある。トレイにお金を載せて受け渡すことが多いが、結局、現金は誰が触っているか分からないので汚染されていると考える必要がある。であれば、現金を触った後の素手でハンバーガーを触ることは、リスクが高いのは考えたら当たり前のことなのだ。

 【床には飛沫が落ちている】床に荷物を置く人も相変わらず多い。飛まつは最終的には床に落ちるが、ここに鞄やリュックを置けばそのままウイルスを持って帰る。もしくは携帯を床に落としてもそのまま操作する人も割と多い。

 【換気とは空気の流れを作ること】換気とは何だろうか。寒さの中で窓や入り口を全開にしている店が散見される。これは「換気=窓を開ける」と勘違いされている典型だ。重要なのは、重さが軽く空気中に浮遊するエアルゾルを流すための空気の流れをどう作るかだ。まず店舗や一般家庭でもする必要があるのは「換気扇」「換気設備」がどこにあるかを確認する作業だ。これも訪問する度に多くが「どこにあるっけ?」となる。部屋を見回してみれば天井や壁にあるだろう。そこにサーキュレーターや扇風機で空気の道を作ってあげることが、空気清浄機よりも対策としては科学的に確実で、何よりも安価だ。十分な換気設備があれば、窓を全開にし、ドアを開けっ放しにして結果、暖房費が上がることを抑えられる。

 ▽自ら知り、考えること

 レッスンで主眼に置いていることは、答えを出すのではなく、感染症のそもそもを理解してもらい、対策をお店側に気づいてもらうことだ。 だから、ラーメン屋さんのお箸立てや水のピッチャーの位置をカウンターの上にしてもらう。バーでのナッツの提供を個包装に変える、もしくは、直前にお客さんの前で取り分けて安心してもらう。厨房では不織布が息苦しい場合には「インナーフレーム」を使用して工夫する、など、伝えることはちょっとしたヒントだ。

 40分のレッスン後にはさまざまな感想をいただく。少し紹介する。

 「お客さんにドアが開いていないことを指摘されるので、うちには大きなダクトがあるので換気は問題がないと説明できる(ピザ屋さんやラーメン屋さん)」「(自閉症の利用者さんが散歩に出るときにはマスクをしていないが周りの視線を感じていたので)屋外ではマスクは不要と、きちんと自分の言葉で説明できると思った(障がい者施設)」「窓が開けられない人がいて介護者である自分の感染が不安になっていたが、建物はすきま風が入っているから換気がされていること、換気扇が意外に沢山あったことに気付いたので安心した(同上)」「高齢者は外出を怖がり、家族との面会を謝絶する施設もある。そうではなく、家族との温かい交流を重視し、効果はある上に「人に優しい」対策を続けることができる(高齢者施設)」

「3密」を避ける行動を呼び掛ける大型モニターの前を歩く人たち=5月26日、東京都新宿区

 ▽冬の流行は想定内なのに

 今年の流行語大賞に「3密」が入った。3密はキャッチーではあるが、その「密接・密集・密閉を避ける」には、具体性がない。

 ポリウレタンのマスクのときは距離をとらずに大声で会話しないとか、大皿料理は素早く分けて小皿を手元に置くとか、電車の床に物を置かないとか、具体的な対策が示されていない。3密が「密接・密集・密閉を避ける」だけでよいと思われているとしたら、これはミスリーディングとも言える。

 感染症対策のために、そしてこれ以上飲食店が困窮しないために「まだ打つ手がある」とすれば、根本的で、かつ正確な対策を周知することだ。店舗の閉店要請による「対処療法」、言い換えればウイルス感染の「ゼロリスク」を追求すれば、経済困窮、倒産や雇用喪失リスクという大きな「リスクトレードオフ」が待っている。

 今の時期の感染拡大は驚くべきことではない。欧米の地域で日本の秋に拡大したのは、先行してこれらの地域で気温が下がり、冬が到来したことが大きく関係している。日本でも、11月からはインフルエンザと相まって、感染拡大が専門家の間では感染発生当初の春先から予想されていた。「想定内」だ。

 にもかかわらず、半年経っても、3密対策=感染対策、「とにかくマスク」と、正確な対策がアップデートされていないことが、リスク対策としては大きな問題だ。

 クラスターが多発している飲食店、認知症の方のいる高齢者施設、知的障がい者施設などでは、病院とは違い、マスクが使用できない人や環境がある。それらの場所に対して、具体的で状況に合わせた「ハンズオン」の手を広く差し伸べられないことをリスク管理の専門家として歯がゆく感じる。

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