『世の中と足並みがそろわない』ふかわりょう著 見事なまでの揃わなさ

 なんていいタイトルなんでしょう。芸人からコメンテーター、音楽活動と幅広く活躍するふかわりょうの新刊は、ステイホーム期間中に書き溜めたという8年ぶりのエッセー集。書名の通り、世間とどこかズレた不器用さや純粋さをもつふかわの、日々思っていること、考えていることが、やわらかな文体で書かれている。

 自分には固有名詞を略す資格などないという謎の信念、スマホの画面バッキバキから考察する女性性、「沈黙の音」が聞こえなかったポルトガルの旅、見知らぬ番号からかかってきた「俺だよ、俺」という怪しさ満点の、タモリからの電話……。

 アイスランド好きで知られているふかわだが、本書にはその旅についても触れている。「地球が生きていること」を実感したくて初めて訪れたのが15年以上前。以来、何度も足を運ぶことで抱くようになった、地球と自然と、人間の在り方についての考えが印象的だ。

 「ウイルスは地球居住歴30億年。人間は、現生人類で約30万年。地球からしたら、我々人間こそウイルスのような存在かもしれません」「噴火も地震も同様です。我々にとって不都合なものは「災害」となりますが、地球にとっては呼吸しているようなもの」……。

 最初に本書を目にしたとき、「世の中と足並みがそろわない」ことをふかわが嘆いているのかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。自分の目線で生きることを、どれだけ大切にしているかが伝わってくる。自身のいびつさも面倒臭さも、「書く」ことを通していつくしんでいるようだ。ごくごく個人的な、かわいらしい一冊に仕上がっている。

 ……と、思うじゃないですか。でもなんか違和感あったんですよね、本文の最後のフレーズが。「ん?この言葉を持ってくるのか」的な言葉で締められてて。

 あとがきを読んでわかった。ふかわりょう、このタイトル気に入ってないんだってよ。つまりはあれだ、本人の希望通りだったら、本編の最後のフレーズがタイトルとリンクして、伏線回収ってな感じで丸く収まってたんですよ。四角い仁鶴も納得ですよ。だけど、ふかわ的に納得してない方が採用されたと。だけど最後のフレーズがそのまま残ってるから、フニャけた読後感になったというわけだ、たぶん。まあ、意味はわかるから問題はないんですけど、一言だけ言うと、ふかわりょう、面倒くせえええええーーーーー!!!あとがきに書くところもイヤミったらしいし、タイトルを見越して締めのフレーズを決め打ちしたなら、本文の方を修正したらいいのに!印刷に入っちゃってもう無理だったの?ほかになんも思い付かなかったの?んなことないだろ!しっかりせい!!

 ……失礼、取り乱しました。「ごくごく個人的な、かわいらしい」本編からガラッと一変して、現在進行形のドキュメンタリー、ていうかほぼ恨み節になっている。それがまた人間臭くて、ある意味かわいいっちゃあかわいい一冊。でも「かわいい」の意味違うからな。さっきの賛辞返せ。

 最後の最後に見事なまでに足並みの揃わなさを露呈した本書。じゃあやっぱりタイトルはこれがベストだったのでは?と思ったのでした。とはいえあとがきにあった、ボツになった方のタイトルも素敵だったけどね!

(新潮社 1350円+税)=アリー・マントワネット

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