温泉地で「湯ワーキング」!別府ワーケーション体験記

温泉×ワークという面白い組み合わせでワーケーションを推進する別府市。「おんせん県」を自称する大分県はどのようにワーケーションを打ち出しているのでしょうか。実際に別府ワーケーションを体験した筆者のレポートもお伝えします。

「イノベーション創出型ワーケーション」と呼ばれる別府の取り組み

2020年、にわかに注目を浴び始めた「ワーケーション」という言葉ですが、最近では「仕事型ワーケーション」「休暇型ワーケーション」といった型に分類され始めています。そのいくつかある型の中に「イノベーション創出型ワーケーション」があります。
個人の場合、クリエイティブなアイデアやネタ出し、創作活動という意味でこの型に当てはめることができます。企業の場合、いわゆるオフサイトミーティングのような形で、仕事の場所を離れて社員同士でリラックスしてアイデアを出し合うことができます。

別府はもともと温泉地に人と人が集まることによって生まれるイノベーションに注目していました。
別府市と連携するビジネス支援機関の職員の方にお話をうかがったところ、別府には温泉をはじめとする観光資源が豊富なこと、市と提携した若者の起業やビジネスを支援する機関があること、立命館アジア太平洋大学(APU)※に通う多くの留学生が住んでいること…など、別府は様々な人が集まってチャレンジする風土があるそうです。
※APU 出口学長のインタビューはこちら

別府は昔ながらの湯治宿が多くありますが、近年は経営者の高齢化が進み、廃業や空きスペースになっている場所も多いです。
こうした湯治宿を残しつつ、活気あふれる場所にしたい。特に温泉地×イノベーションを一層アピールして人と人とが交流する場所、時にはリラックスする場所として活用してもらいたい。
こういった背景とワーケーションの需要がうまくマッチしたのが別府だと思います。

イノベーション創出型ワーケーションについては、一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォーム B-biz LINKの実証実験リポートでかなり詳しく語られているのでそちらをご参照ください。

参考:
「イノベーション創出型ワーケーション」@別府市鉄輪リポート 3泊4日でお仕事×温泉三昧【前編】
「イノベーション創出型ワーケーション」@別府市鉄輪リポート 3泊4日でお仕事×温泉三昧【後編】

旅ライターが実際に別府ワーケーションに行ってみた!

今回、旅するライターの筆者が実際に別府ワーケーションに行った際に会った、年齢も性別も職種も全く違う3人にインタビュー。3人ともとても旅慣れているので、皆さんワークとバケーションの両立が上手でした。
そんな3人の体験談もふまえ、温泉地でのリアルなワーケーションの様子をお伝えします。

Airbnbで一軒家を借りてバケーション

博多に集合し、由布院経由で別府へ。この日はバケーションを満喫すると決めていたので、由布院観光をたっぷり楽しんだ後、バスで別府に向かいました。
今回の宿泊先は、Airbnbの一軒家。なんと、家に本物の温泉が出ます!宿に向かう道中、道端で普通に湯気が出ていて、温泉地であることを実感しました。

今回このAirbnbの宿は1泊のみ利用しましたが、数日間借り切って合宿のように仕事をし、疲れたら温泉に入るという「家系ワーケーション」もよさそうだなと感じました。

それぞれの宿へ向かう前にコワーキングスペースで仕事

私たちは4人とも仕事優先で来ているため、最初の1泊(Airbnbの宿)以外はそれぞれ違う宿を取り、観光は「仕事が終わって時間が合えばする」「夜に一緒に飲みに行く」という程度にとどめることにしました。
ここで仕事と観光を欲張らなかったのが4人ともワークとバケーションのバランスを取りながら楽しめたコツだと思います。

それぞれの宿へ向かう前に、チェックインまでコワーキングスペースで仕事をすることにしました。
今回は、駅から近い「コモールカフェ別府(CoMall Cafe BEPPU)」を利用しました。
こぢんまりとした素朴なワーキングスペースで、ちょっと仕事をするには便利な場所です。

旅行先にコワーキングスペースが必ずしもあるとは限らないので、事前に「○○(地名) コワーキングスペース」等で検索して、仕事ができる場所の有無や宿との距離感を把握しておくのがベターだと思います。
仕事をするつもりだったけどチェックインまで腰を下ろせる場所がなかったということがないように、事前に調べておくと安心です。

観光地でコワーキングスペースを運営している人は、チェックインまでの時間のドロップイン利用を狙って宿と提携したり、Google Mapsで「コワーキングスペース」で検索に載るようにインフラを整えると需要が高まると思います。

鉄輪まで足を伸ばすなら、温泉に入れるコワーキングスペース「a side-満寿屋-」がおすすめ!
a side-満寿屋

別府八湯に数えられる鉄輪(かんなわ)エリアにあるコワーキングスペース。昔ながらの湯治場らしい雰囲気のある温泉街です。a sideは元旅館をリノベーションして造られた建物、日常の作業はもちろんクリエイティブな仕事をするのに最適な空間です。「a side」の利用者は建物前の「すじ湯」が無料で利用できます。
実際に「a side」を利用したAさんは「アットホームな雰囲気で、一人で来たとしても現地で知り合いを増やせそうな雰囲気があってよかった」と話してくれました。

昭和レトロな旅館「山田別荘」に宿泊

筆者は今回、別府駅や繁華街に近い山田別荘に宿泊しました。明るい女将さんがおもてなしをしてくれました。山田別荘の魅力を4つご紹介いたします。

(1)落ち着いた雰囲気

築90年の日本家屋の落ち着いた雰囲気の中で、昭和の懐かしさを感じることができます。昔ながらの木造建築で、木の床を歩くのもまた味わいがあります。「別府」「鉄輪」など部屋の名前に別府の地名がつけられているのがユニークだと思いました。

(2)浴衣貸出サービス

女性にうれしい、豊富な色柄やサイズを選べる浴衣貸出サービス。ゆっくり温泉に入った後は、浴衣を着ると気持ちが高まります!浴衣を着て館内を歩くのはとても趣がありました。

(3)2つの温泉
山田別荘には内湯と露天風呂の2種類の温泉があります。露天風呂は30分ごとの予約貸切制で、朝と夜に入浴できます。泉質の違う2つの泉源を楽しめます。露天風呂は離れにあるので、静かでとても居心地がよかったです。

(4)駅や繁華街から近い
山田別荘から繁華街まで徒歩圏内です。別府の名物、関サバ・関アジや鴨すいが味わえる昔ながらの料理屋も多くあります。繁華街が近いものの、山田別荘は閑静な住宅街の中にあるので落ち着いた空間です。

昼に仕事or夜に仕事

筆者は今回バケーション比重が高かったので昼間は観光に出かけて夜に少し仕事をしました。ライターのようなパソコン1つでできる仕事なら旅館での仕事も問題なくできます。
こういう昔ながらの旅館に数日宿泊し、昼に籠もって仕事をするのもよいかもしれませんね。
ただし、ビジネスホテルのように仕事用の椅子と机があるわけではないので長時間パソコンをするのは難しいかもしれません。

コアタイムの仕事がある会社員の友人たちは昼間集中して仕事をし、仕事後は夜景を見に展望台に行ったり飲み屋を歩いたりしたそうです。
自分の時間はしっかり確保しつつ、遊んだり食べたりする時はしっかりバケーションを満喫するというスタイルでワーケーションを楽しみました。

実際に別府ワーケーションをした感想

Q:別府でのワーケーションはどうでしたか?
Aさん「湯けむりが上がっている風景がよかったです。本当に温泉と共にある街なんだと実感しました。街並みや飲食店にも風情があって、旅行気分を味わえました。楽しすぎて仕事が疎かになりそうなので、1週間くらい滞在したいですね」

Bさん「鉄輪エリアは気分転換の散歩に最適でした。他にはない風景だと思います。無料の公衆浴場がたくさんあるのが魅力的でした。今回は時間がなくて入れませんでしたが、ワークとバケーションのバランスを上手く取りながら、次は利用したいですね。Aさんの言うように、1週間以上滞在したいです」

Cさん「仕事終わりに質の高い温泉に毎日入れるという贅沢な日々でした。繁華街は個人経営の魅力的な店が多く、開拓のしがいがありそうです。別府は意外とコワーキングスペースが多そうなので、ワーケーションには最適な場所だと思います。」

Q:湯ワーキングについてはどうでしたか?
Aさん「毎日温泉に入れて満足度が高かったです。仕事→散歩→温泉→飲みに行く というルーティンがよかったです」

Cさん「仕事前や仕事中に温泉に入ると眠くなってしまいました…。次は入浴時間を短くするか、仕事後に思いっきり楽しみたいです!」

どのタイミングで温泉に入るのがよいかは、人や仕事の状況によるようです。温泉に入って、湯冷ましがてら散歩して仕事に戻るというスタイルもよいかもしれませんね。

別府の湯ワーキングのコツを聞いてみました

別府市と連携するビジネス支援機関の職員の方に、上手な湯ワーキングの方法についてお伺いしました。

「別府の温泉は源泉なので、観光客の方にとってはなかなか慣れない熱さだと思います。疲れた時は短時間だけ湯に浸かることで交感神経が刺激され、思考が活発になります。

また、パソコンやスマートフォンから一度離れることで強制的にデジタルデトックスできるのもよいと思います。水が流れる音は1/fゆらぎといって、人間がリラックスできる性質を持っています。

湯ワーキングがクリエイティブ系の仕事と相性がいいと言われるのはそのためです。仕事中に入るのであれば短時間の入浴をおすすめします。

仕事後に入るのであれば、別府の街中にたくさんある公衆浴場を入り比べてみたり、地元の人との交流を楽しんだりするのもよいと思います」

おわりに

別府はもともと湯治場が多く、人々が癒しを求めて集まる場所でした。人が集まり、アイデアを出したり新たなチャレンジを試みたりする風土がイノベーション創出型ワーケーションと相性がよい土地だと思います。
昔ながらの旅館で家族や友達と、もちろん個人でもワーケーションを楽しむことができますし、コワーキングスペースも充実しています。
熱い温泉は短い時間でサッと入る、入浴後は散歩に行って眠気を覚ますなどして、オンオフをうまく切り替えながらワークをし、夜や休日は見所たっぷりの観光地を満喫するスタイルで、別府ワーケーションを楽しんでみてはいかがでしょうか。


小山 志織
和歌山県出身のフリーライター。「住むように旅をする」をモットーに、2020年7月〜12月まで九州を旅しながら執筆活動を続ける。noteで自身のワーケーション記やエッセイを綴っている。
Twitter:https://twitter.com/shiori_koyama
note:https://note.com/shiori_koyama

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