すばる望遠鏡が褐色矮星を直接観測、新装置&新発想の組み合わせによる初成果

すばる望遠鏡に設置されたSCExAO/CHARISによって検出された褐色矮星「HD 33632 Ab」(中央右)。中央に位置する主星からの光は遮られている(Credit: T. Currie, NAOJ/NASA-Ames)

NASAエイムズ研究センター/国立天文台ハワイ観測所のセイン・キュリー氏らは、ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」の新しい観測装置と新たなアイディアを組み合わせた手法を用いることで、恒星を周回する天体を従来よりも効率的に発見できるようになったとする研究成果を発表しました。研究グループはこの手法により「ぎょしゃ座」の方向およそ86光年先にある褐色矮星「HD 33632 Ab」を発見しています。

太陽以外の恒星を周回する太陽系外惑星は直接観測することが難しく、その多くは「トランジット法」「視線速度法」といった手法を用いて間接的に発見されてきました。トランジット法は、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る「トランジット」を起こした際に生じる主星のわずかな明るさの変化をもとに系外惑星を検出する手法。もう一つの視線速度法は、系外惑星の公転にともない主星が揺れ動く様子を主星の色のわずかな変化をもとに捉え、系外惑星を検出する手法です。

いっぽう、系外惑星の直接観測による探査を目指すキュリー氏らの研究グループは、2013年に打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データに注目しました。ガイアは天体の位置や運動について調べるアストロメトリ(位置天文学)に特化した宇宙望遠鏡で、18億以上の星々の位置と明るさに関する情報が含まれている最新の観測データ「EDR3(Early Data Release 3)」が先日公開されたばかりです。

関連:観測された星の数は18億以上。宇宙望遠鏡「ガイア」の最新データが公開される

ガイアの観測データを利用すると、恒星のふらつき(動き)を天球上の位置の変化として捉えることができます。研究グループは、ガイアの観測データから大きな軌道を描く系外惑星や褐色矮星が公転しているとみられる恒星をピックアップして観測を実施。その結果、前述の褐色矮星HD 33632 Abを直接観測によって発見することに成功しました。

天球上で検出されたふらつきに着目した新たなアイディアをもとに褐色矮星が見つかったのは今回が初めてのことだといい、研究に参加したカリフォルニア大学サンタバーバラ校のティモシー・ブラント氏は「これまでの褐色矮星探しは運試しのようなものでしたが、今回は勝算の高い探査が可能になりました」と語ります。

研究グループの新たなアイディアによる観測を支えたのが、すばる望遠鏡に設置された2つの最新装置「SCExAO(スケックスエーオー)」「CHARIS(カリス)」です。SCExAOはあたかも宇宙から観測しているようなシャープな像を生み出す補償光学(AO:Adaptive Optics)システム。CHARISは明るい恒星を周回する系外惑星や褐色矮星といった暗い天体を見分け、表面の状態や温度、大気の様子などを調べることができる分光観測装置です。

公開された冒頭の画像を見ると、太陽によく似た主星から約20天文単位(※)離れたところを周回するHD 33632 Abからの光が捉えられていることがわかります。研究を率いたキュリー氏は「新装置によって得られた非常にシャープな画像のおかげで、HD 33632 Abが発見されただけでなく、天球上での正確な位置天体の大気の性質を解明するためのスペクトル(波長ごとの光の強さ)まで得られました」とコメントしています。

※…1天文単位=約1億5000万km。太陽から地球までの平均距離に由来する

発表によると、従来の直接観測による系外惑星や褐色矮星の探査は検出率が数パーセントと非常に低かったといいます。新手法による探査を行っている今回の研究グループはさらに複数の候補を見つけているといい、直接観測でも過去の探査より高い頻度で系外惑星や褐色矮星の発見につながることが期待されています。

左:今回の観測で得られたHD 33632 Abのスペクトル。大気中に水蒸気や一酸化炭素が存在するとみられる。右:天体の動きからHD 33632 Abの軌道を調べるためのモデル。分析結果からHD 33632 Abの質量は木星の約46倍と推定されている(Credit: T. Currie, NAOJ/NASA-Ames, T. Brandt, UCSB)

Image Credit: T. Currie, NAOJ/NASA-Ames
Source: 国立天文台
文/松村武宏

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