【追う!マイ・カナガワ】スーパーの張り紙「LOCAL ONLY」は「ライトなヘイト」? 差別の意図はなかったが…

「SORRY LOCAL ONLY」と英語で記され、スーパーの入り口に掲げられた貼り紙=8日夕、葉山町堀内

 「『SORRY LOCAL ONLY』。葉山町のスーパーの店頭に、見慣れない張り紙があります」─。神奈川県葉山町の女性から「追う! マイ・カナガワ」取材班に投稿が寄せられた。「Jリーグのサポーターが『JAPANESE ONLY』という差別横断幕を掲げた事件に似たヘイトなのではと思ってしまい、憂鬱(ゆううつ)になった」という。来年1月のオンデマンド調査報道スタートを前に、「マイカナ・プレビュー編」として、女性の疑問を調べてみた。

◆緊急事態宣言下、行政が配布

 投稿は今月8日に寄せられ、マイカナ取材班は同日夕、葉山町にあるスーパーに向かった。葉山御用邸で知られるこのエリアは緑豊かで海も近く、環境の良さを求めて移住して来る人や、別荘地としても人気を集めている。

 店頭の自動ドアにA4サイズの紙が張ってあった。「SORRY LOCAL ONLY」と大きく記され、その下の大きなピンク色のハートが目に飛び込んでくる。地元住民以外、お断りという意味だろうか。

 女性は張り紙を見た時、「英語で書かれていることで『ライトなヘイト』のよう。人種差別的な違和感を持たれないようにふんわりとした空気を醸成しているように見える」と感じたといい、「自分の町ではあってほしくない」と声を落とした。

 横浜市にある同スーパーの運営会社に問い合わせると、同店では4月からこの紙を張っており、町内の別のグループ店舗でも一時期、同じものを掲示していたという。さらに、張り紙は、新型コロナウイルスで緊急事態宣言が出た4月に、葉山町の産業振興課が両店など周辺の約20店舗に配布したものであることが判明した。

 同社は「自治体からの依頼ということで、店長が判断し掲示していた。特に強い意見があって張ったわけではない」と説明。グループ店舗では、1カ月ほど店頭に張った後、店長の判断で剝がしたという。

 その上で、同社は「今回のご指摘で初めて張り紙の存在を認識した。ヘイトと受け止められてしまうというご意見は、確かにそう受け止められかねず、今後はこのようなことがないよう徹底したい」と話した。

 女性が情報を寄せてくれたスーパーの張り紙は、今月9日朝から姿を消した。

◆コロナで移動自粛を呼び掛け中「地元を守らないといけないと」

 一方、「SORRY LOCAL ONLY」と書かれた張り紙を配布した葉山町には、どのような考えがあったのだろうか。産業振興課は配布のいきさつをこう説明する。

 「緊急事態宣言下で、移動の自粛をお願いしている期間だった。地域外の方は来ないでというアピールは、県なども発信していた。公営駐車場の利用制限もしていて、そうした一環で実施したものだった」

 4月7日から5月25日まで、国は緊急事態宣言を発令。自然豊かな葉山では、都内など都市部からの訪問客が多く見られ、町内の公営駐車場のうち5カ所を閉鎖するなど規制の強化を余儀なくされていた。

 こうした時期に、同町の飲食店が都心などから来る利用客の増加を警戒して作成したのが、今回の張り紙という。そのかわいらしい「デザインが良かった」という同課が、周辺の店舗にも配布し掲示を頼んだという。4月には、近隣の飲食店やドラッグストアでも張られていた。

 張り紙を作成した飲食店店主は、緊急事態宣言下にも都内などから多くの来訪があり、不安を感じていた住民も多かったといい、「4月の時点では地元を守らないといけないとの思いで、今だけはご協力くださいという気持ちだった。排除ということではなく、こんな時こそ遠方ではなく地元の店に通っていただけたら、との気持ちもあった」と打ち明けた。宣言解除後は張り紙を外し、現在は町内外の客を広く受け入れているという。

◆英語を使うことで「意図はどうあれ」

 同課は「今も感染者が増えているが、当時のような自粛を依頼する期間は過ぎている。張り紙が残っていたのであれば外してもらうようにしたい。(英語で書かれているが)外国人の方へのメッセージという意図は全くなく、悪意のあるものではない」と強調した。

 葉山町の女性が抱いた疑問を出発点に取材した結果、張り紙の作成や配布、掲示に関わった関係者には、いずれも外国人差別など意識はなかったが、結果的に意図しない受け止めをされる可能性もあることが浮き彫りになった。

 外国人の人権問題に詳しい師岡康子弁護士は「英語を使うことで外国人に向けたアピールになってしまい、ポスターを作った人の意図はどうあれ、外国人排斥のメッセージになってしまう。行政や企業がそれに気付かずにお墨付きを与えて、放置していたことは問題」と指摘した。

(追う! マイ・カナガワ取材班)

© 株式会社神奈川新聞社