「サッカーコラム」二つ勝てば「星」を獲得 激しさ増す天皇杯出場権争いでJ1が最後まで面白い

湘南―G大阪 後半、ヘディングで決勝ゴールを決めるG大阪・パトリック(奥)。GK後藤=BMWスタジアム

 自分の着ているシャツに、「あれ」が付いているのと無いのではサポーターの気分もかなり変わるのではないだろうか。いまや全盛期を誇るJ1川崎でさえ、「あれ」を得るまでにはJ2参加から19年の年月を待たなければいけなかった。

 2017年12月2日、J1の最終節。川崎が大宮に5―0と大勝し、J1で初のタイトルとなるリーグ優勝を決めた夜のことが印象に残っている。スタジアムに来たときにはなかった「あれ」が、驚くほどの早さで川崎のチームバスに描かれていたのだ。

 光り輝く金色の星。

 クラブが獲得したタイトルを示す星は、多ければ多いほどクラブを取り巻く人々の誇りになる。

 国内の三大主要タイトルとなるのがJリーグとYBCルヴァン・カップ、そして伝統に彩られた日本最古の(プロ、アマの区別なく参加できる)オープントーナメントである天皇杯だ。J1のチームは今回、「星」を例年以上に少ない試合数で手に入れられる。もちろんその前にはJ1で2位以内を確保しなければならないというハードルはあるのだが。

 変則レギュレーションで行われた本年度の天皇杯は、J1で2位以内に入れば準決勝からの出場となる。もちろんトーナメントを勝ち上がってきた下位のディビジョンのチームに足をすくわれる可能性はあるが、J1の上位2チームは当然ながら戦力が充実しており、実力は上だ。普通に考えればJ1勢が元日の決勝に進む可能性が高いだろう。

 すでに川崎がリーグ優勝を決めているので、残る天皇杯出場枠は一つ。2位のポジションを巡り可能性を残す3チームが争っている。12月5日と6日に行われた試合を終えて2位は勝ち点62のG大阪、3位に同59の名古屋、4位は同58でC大阪。G大阪と名古屋が残り2試合なのに対し、C大阪は3試合。混迷するレースは最終節までもつれそうだ。付け加えれば、来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権は3位までだから、このうちの1チームが何も手にしないでシーズンを終えることになる。

 「トーナメントとほぼ同じ」。3チームの選手たちはそう感じているだろう。勝たなければ次がないというトーナメント特有の感覚は、同時に余計な緊張も生む。5日にC大阪と名古屋が勝った結果を受けて、6日に試合のあったG大阪の選手たちにはプレッシャーがあったはずだ。

 相手は16位と下位に低迷する湘南。しかし、ここ2試合は粘り強く引き分けに持ち込んでいる。G大阪は2位に付けているとは言え、順位がそのまま結果に反映されるとは限らなかった。

 立ち上がりこそ順調だった。開始6分に鋭い出足で湘南MF畑大雅へ入った縦パスを奪い取った高尾瑠がゴール前のパトリックに横パス。ポストに入ったパトリックは、後方に巧みな落としを見せ、これを走り込んだ福田湧矢が右足で強振した。「今季はずっとああいう練習をしてきた」という狙い通りのシュートは、驚くような速さでネットに突き刺さった。

 1―0とリードしたことで、本来ならばG大阪の選手は楽な気持ちで試合を進められるはずだった。事実、終始ゲームをコントロールしていたのはG大阪だった。実際に何度も惜しいシーンがあった。しかし、ゴールラインを割らなければ追加点は生まれない。最少得点差のリードは、時に危うさはらんでいる。

 決定機がほとんどなかった湘南で、反撃ののろしを上げたのが先制点を失うきっかけを作った畑だった。恐るべきスピードを武器とする19歳のウインガーは、前半35分に左サイドを突破すると、ペナルティーエリア深くに侵入し、マイナス方向の中川寛斗に丁寧なラストパスを送る。その中川のシュートがG大阪・DF昌子源のハンドを誘いPKを獲得。中川自身がゴール左上にたたき込み、試合を振り出しに戻した。

 優勢に進めていた試合を、追加点を奪う前に同点にされてしまう。精神的にはかなりのダメージだ。特に取りこぼしの許されない状況ではなおさらだ。その窮地を救ったのが、この試合でJ1での出場が200試合目となった。パトリックだ。日本への国籍取得も視野に入れ日本語を本格的に勉強する努力家。平仮名での文章を会員制交流サイト(SNS)で披露するなど、そのいかつい見た目とは違い、日本的な感覚を持つブラジル人だ。この試合でも外国籍の助っ人にありがちが「点を取れば良いんでしょ」というエゴイスティックさとはかけ離れ、誰よりも献身的なプレーを見せた。前線からプレスを掛け、ハイボールに対しては体をぶつけて競り合う。前線の攻守の要となった。

 頑張れば、それが必ず報われるとは限らない。しかし、200試合という自らの区切りになる試合でパトリックにはプレゼントが用意されていた。後半21分、左サイドをオーバーラップした藤春廣輝がゴール前に絶妙のセンタリング。ファーサイドにいたパトリックは湘南DFの頭を越す打点の高いヘディングで貴重な決勝点を奪った。

 今シーズンは早々と川崎の優勝が決まり、降格もないJリーグ。シーズン大詰めの見どころが減ったと思っていたが、まだまだ面白い。3チームによる後のない戦い。天皇杯、ACLの出場権争いから、最後まで目が離せない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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