「レーキアングル」を採用したセットアップの難しさを抱えていた新型GRスープラ/GT500分析(トヨタ編)

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 7月中旬になってようやく開幕のときを迎えた2020年のスーパーGTシーズン。富士スピードウェイに登場した久々の“トヨタ・ブランド”GT500車両となったGRスープラは、ポールポジション獲得からトップ5独占の衝撃デビューを飾り、この新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に翻弄された超圧縮カレンダーの1年は「トヨタの年になりそうだ」と、多くのファンにそう予感させた。

 そのブランニューモデル躍進を支えたのが、基本的なベースモデルの車体形状に由来する「空力面での素直さ」と、フロアの形状が共通化された規定を戦い抜くセッティング面での運用、つまり車体に前傾角をつけてダウンフォース獲得を助ける「レーキアングル」の採用だ。

 この2点に関して、車両開発を指揮したTRDの湯浅和基氏は、シリーズ史上初の同一サーキット連戦となった第2戦富士(※編注:2016年に起きた熊本地震の影響により、最終戦もてぎで同一週末に2連戦が開催されている)の現場で次のように説明してくれていた。

「前のモデル(レクサスLC500)は、実走させると『あれ、風洞とちょっと違うね』という謎解きの部分があった。それがスープラだと『それなり』の範囲に収まる」

「動的車高や姿勢変動の重要性はそのLC500時代から今季で認識が変わったわけではないですが、年を追うごとに解析やコンピュータの処理能力が向上し、できることが増え、分かることもある。そうすると『どの姿勢で1番空力を重視すればいいか』という部分がだいぶクリアになってくる」と語った湯浅氏。

「フロアが共通になりダウンフォース獲得の方法も限られる。そこで空力屋さんも知恵を絞ってくれて、走らせ方との整合性を優先してくれた」

「サーキットを1周走ると『ロールはこういう風にします、ピッチはこういう風にします』というなかで、どこで空力を使うのが一番いいのだろうか、というような部分を車体側と密に打ち合わせをしてくれた。なので従来の“ダウンフォース・ドラッグ至上主義”とはだいぶ変わったアプローチ、ということになるでしょうか」

 その開発コンセプトはラテラルダクトの造形にも如実に現れ、フィンやフェンスの類を極力排した、ライバルとは大きく異なるシンプルさ。その形状はドラッグの少なさを視覚的に訴えるもので、実際に1.5kmの長さを持つ富士スピードウェイのホームストレートはGRスープラの独壇場となった。

 その後、開幕戦ポール・トゥ・ウインの37号車KeePer TOM’S GRスープラに続き、第5戦でも39号車DENSO KOBELCO SARD GRスープラが勝利を飾り、トヨタ勢は富士スピードウェイで年間2勝を挙げた。

 しかし300km/h超の最高速を武器としたGRスープラにとってみれば、シーズンで4戦が争われた富士のすべてで勝っておきたかったのが本音だろう。

2020年スーパーGT第5戦富士 DENSO KOBELCO SARD GR Supra(ヘイキ・コバライネン/中山雄一)

■変則カレンダーがドラビリの評価に影響

 鈴鹿、もてぎを含め、限られた3つのサーキットで全8戦を争った異例の2020年。劇的な形で幕を閉じた最終戦富士を終え、改めて湯浅氏がシーズンを振り返る。

「皆さんが言われるとおり富士の直線はエンジンパワーも含めて有利だったんだろうな、と。ただ、コーナリング中にしっかりダウンフォースを出すような姿勢を保つ……という意味では、鈴鹿のハイレーキは良いのですが、ピタッとコーナリング姿勢を決めていく時間が短いもてぎなど、低速で回り込むコーナーが連続するコースだとブレーキング時にリヤが高い分だけわずかに車高が上がり安定性が下がる。想定していたとはいえ、その点は少し厳しい部分はありました」

 ドラッグ低減を狙う富士では相対的にレーキ角を減らし、ハイダウンフォースサーキットの鈴鹿ではレーキ角度を付けるのが基本的な運用。しかしストップ・アンド・ゴーのもてぎではその良い面が出にくかったのも事実だ。

 またエンジン開発の側からも、ドライバビリティが勝敗を左右するこのツインリンクもてぎ攻略が、シリーズの結末を左右した面がありそうだ。今季からエンジン開発責任者として職務に戻ったTRDの佐々木孝博氏は、シリーズのカレンダー構成が及ぼした影響に言及する。

「僕らエンジンサイドとしてはコースインからストレスのないこと、そこをこのスープラで取り入れるということを目標に開発を続けてきて、そこは最終戦富士を見ていてもしっかりできていたかなぁ、とは思います」

「逆に(本来、開幕戦だったはずの)岡山でエンジンのドラビリ特性を含めて課題を見つけておけば、もてぎに対する手は打てたと思う。今回は(前半戦が)富士・富士・鈴鹿・もてぎになってしまったので、やっぱりもてぎで(課題を)知ることになってしまった。そこを初めに知ることができていれば良かったのにな……とは思います」

 シーズン最初のもてぎとなった第4戦は、悪天候が絡んだうえに成績に応じたウエイトハンデの搭載で、すでに燃料リストリクター制限領域に突入した車両もいたことなどから、本来のドライバビリティ評価が“マスクされた”ような状況となり、その影響は2基目を搭載していた第7戦にまで響いた。(ホンダ勢がトップ5を独占)

 変則カレンダーやテスト日数の不足など環境条件はライバルも同じだが、トヨタ陣営としては新型GRスープラの個性把握や、新規則に対応した新たなセットアップ運用の面でも難しさを抱えたシーズンとなった。

「今季はとにかくテストがなかったですし、新車の準備をしっかりしなくてはと思いつつ、なかなか3年使ったクルマ(LC500)のいろいろな部分の感度と比べると……。エンジニアさんも身に染み付いてますから。僕らが開発車でいろいろやった数値を伝えても、やっぱりエンジニアさんとドライバーさんが肌で感じてもらわないと、なかなか難しい」

「そういったところで、シーズン中は新車なりの難しさはあった。『ちょっとコレをやってみたいんだけど』とか『こっちのほうが速いと思うんだけど』というエンジニアさんのデータも採らせてもらったりして、僕らも経験値を積ませてもらいました」と湯浅氏。

 2021年に向けては引き続き「1周走ってどれだけタイムゲインがある空力が有利か」のコンセプトを踏襲しながら、レーキアングルの付け方と車両セッティングのバランスを取り直すなど、GRスープラのポテンシャルを引き出すための地道な作業の積み重ねが求められる。

「今季は富士が多かったのでそこ(レスドラッグと最高速)が本当に目立ちましたけど(笑)、たとえば今後の考え方として、いま持っているダウンフォースとドラッグのレシオを(DFを増やす方向に)変えることも考えられる」

「来年の富士はふたつ予定されていますが、これがもし3つになる……ということがあれば、逆に『もっとドラッグを減らす』という方向の考え方もあるでしょうね」とは湯浅氏。

 新型ベースモデルの投入、レーキアングル採用、異例のカレンダーとエンジン開発など、初モノ尽くしの苦労を経て、GT500の王座奪還を目指した戦いはすでに最終戦翌日から始まっている。

KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/山下健太)