竹内まりやからの「特別航空便」サンタクロースは山下達郎? 1981年 9月25日 竹内まりやのシングル「Special Delivery~特別航空便~」がリリースされた日

憧れのお姉さん、竹内まりや

ロサンゼルスに従兄弟が住んでいた。年に何回か、赤と青の縞で縁取られた、薄く青みがかった色合いで独特のにおいがする封筒で届くエアメール。そのなかでも毎年12月に届くエアメールは、縁取りのない白い分厚い封筒にその年の家族写真とクリスマスカードが入っている、特別な手紙だった。

さて、竹内まりやさんは、わたしにとってずっと憧れの女性。1978年11月「戻っておいで・私の時間」でデビューした頃からずっと好きな歌手であり、憧れのお姉さん。中高生のころは、あんな綺麗な女子大生のお姉さんになって、できれば音楽を作るひとになって、そこで出会ったひとと一緒に音楽を作って、かなうならば… と、まりやさんの生き方に憧れていた。

ロサンゼルスに住む件の従兄弟とは別の従兄弟が、まりやさんと同じAFS留学プログラムで米国留学をしていたという縁もあり、ろくに勉強もしてないくせに、「将来はあんなお姉さんになってやるんだ」と勝手に憧れていた。そんなわたしが16歳を迎えるすこし前に聴いたのが、竹内まりやさんが休業前に最後に出したアルバム『Portrait』(1981年)だった。

アルバム「Portrait」に先駆けてリリースされた「Special Delivery」

アルバム『Portrait』が出る約1か月前にシングル盤としてリリースされ、アルバムのB面5曲目にも収録された「Special Delivery~特別航空便~」。舞台はニューヨーク。東京よりもずっと寒いニューヨーク。14時間の時差がある日本に暮らす彼へ送るのは、速達便で送るエアメール。届くころにはクリスマス、ニューヨークという街がいちばんキラキラと輝く季節。まりやさんはそう歌っている。余談だけど、わたしは1度だけ1986年夏にニューヨークを訪れたことがある。冬のニューヨークの寒さは知らないけれど…。

「Special Delivery~特別航空便~」は1980年にまりやさんが初めてニューヨークに行った時にひらめいた曲、とアルバム『Portrait』のセルフライナーノート “曲について” に書かれている。当時25~26歳のまりやさんが書く遠距離恋愛についてのコメントは恋する乙女っぷりが満開。あまりに可愛らしすぎるので引用する。 「もし、あの街で長い期間ひとり暮らしをすることになって、日本にいる恋人と離ればなれになるとしたら、きっと手紙をいっぱい書くんでしょうけど、とりわけ、クリスマスカードはスペシャル・デリヴァリー(速達)にして会いたい気持ちをわかってもらわなくっちゃね。」

歌詞の “あなた” はもちろん山下達郎?

歌詞に書かれている “あなた” は、もちろんその後伴侶となる山下達郎さんのことだろう。デビューアルバム『BEGINNING』(1978年)、4枚目のアルバム『Miss M』(1980年)でロサンゼルスで録音を行っているまりやさんだが、もしニューヨークでのレコーディングがあったなら… と想像してみよう。

ニューヨークに長期滞在しているまりやさんが、日本の達郎さんに向けて綺麗な文字で書いた手紙を書き綴り、ポストに度々投函しては、達郎さんをニューヨークに呼び寄せていたかもしれない… と、ついついドラマ仕立ての想像をしてしまうわたし。

もっとも、実際にアルバム『Portrait』の制作時期には既に達郎さんと一緒に住んでいた、と『Portrait』の2019年リマスター盤のライナーノーツには記載があるので、まりやさんと達郎さんがミューヨークで現地のミュージシャンと音楽を作っている様子を想像してしまう。

時代性を感じさせない上品なクリスマスソング

妄想はさておき、「Special Delivery~特別航空便~」の編曲は山下達郎さん。コーラスにも達郎さんの声がふんだんに入っている。トナカイが鳴らす鈴を思わせる、シャンシャンシャンシャンと響くパーカッションも達郎さんによるもの。ひと昔前のオジサンが結婚式で言っていたような下世話な喩えで恐縮だが、結婚披露宴でウェディングケーキをふたりで切るような共同制作といっても過言ではない。

まりやさんが歌う、「♪ 二人でいようね 二人でいようね 二人でいようね…」に続く、「♪ サンタクロース・イズ・カミング・トゥ・タウン…」のコーラス。これは、1934年にジョン・フレデリック・コーツ&ヘヴン・ギレスピーによって書かれ、シュープリームスやジャクソン5などのカヴァーでもお馴染みの「サンタが街にやってくる」。お馴染みのクリスマスソングからコーラスを入れたのも山下達郎さんのアイディアだという。まりやさんと達郎さんが作り上げた、時代性を感じさせない上品なクリスマスソングになった。

「Special Delivery~特別航空便~」は、まりやさんの実体験と思いきや、まりやさんの想像を歌にしたものだった。ちなみに17歳のまりやさんが留学していた頃の、1972年イリノイ州ロックフォールズでの青い瞳の少年への想いは、アルバム『Portrait』で12曲目に収録されている「ポートレイト ~ローレンスパークの想い出~」にちりばめられている。こちらも雪解けのすき間から冬の芝生が目に浮かぶ、素敵な冬の歌だ。

全世界がコロナ禍に喘いだ2020年。離れてても、テクノロジーの進歩でオンラインでつながることが普通にできるようになった昨今、距離については “ほぼないもの” になっている。でも、時差があることは変わらないし、好きな人の近くにいたいのは変わらない。

サンタクロースにお願いができるのなら、“I wanna be with you” それだけは、きっとずっと変わらない。

あなたのためのオススメ記事 竹内まりやがアイドルだった時代「不思議なピーチパイ」それは奇跡のグッドタイミング♪

カタリベ: 彩

© Reminder LLC