走るだけで回りの空気がキレイになる!?トヨタMIRAIの衝撃的な環境&走行性能

11月にプロトタイプ試乗としてこのメディアでも紹介されたトヨタの燃料電池車「MIRAI(ミライ)」が12月9日に発表されました。価格や驚きの環境性能、そして走りに対するこだわりは新世代の高級車と言えそうです。


排出するのは“水”だけの究極のエコカー

2014年に世界初の量産燃料電池車(FCV)として発表されたのが初代MIRAI(以下ミライ)です。FCVは「Fuel Cell Vehicle」の略ですが、簡単に言えば酸素と水素が化学反応を起こすことで電気が発生。この電気でモーターを回し走行するのがFCV、一部搭載するリチウムイオンバッテリーにも充電され加速時にも活用します。モーターによる駆動ですから、FCVもEV(電気自動車)のひとつと考えても問題はありません。

酸素と水素が化学反応することで取り出した電気以外に発生するのは水蒸気のみです。つまり初代も含め、ミライは大気汚染の原因となる二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、そして浮遊微粒子物質(PM)と呼ばれるものや有害物質などは一切排出されません。車外に排出されるのは“水”だけです。

初代は世界に先駆けての発売ということもあり、環境車であることをアピールするようなデザインでした。ただこれに関しては賛否もあり、やはり「まだFCVは特別なもの」という印象でした。

駆動方式も含め大刷新

新型ミライの技術的な進化は数多くありますが、まず最初に旧型の駆動方式がFF(前輪駆動)だったのに対し、新型はFR(後輪駆動)を採用した点にあります。

クルマの基本(土台)となるプラットフォームはトヨタが提唱する「TNGA」と呼ばれる考えに基づくもので、ミライの場合は現在販売されているクラウンと同じ「GA-Lプラットフォーム」を採用しています。全長で+85mm、全幅は+70mm、全高は-65mm、そしてホイールベースは+140mm、つまり旧型とは比較にならないほど「ワイド&ロー」で、のびやかなボディをまとうことになります。

トヨタによれば、FCVはもちろん重要な要素だが「乗りたいと思ったクルマが、たまたまFCVだった」と説明しています。ここからわかるように、低重心化とFR化による前後50:50の理想的な重量配分やシステムの進化により従来とは比較にならないほどのハンドリングを身につけたと言えるでしょう。

水素タンクが1本増えました

FCVの基本となるシステムも大きく進化しています。FCVはガソリンタンクの代わりに水素を高圧で蓄える専用のタンクが必要となりますが、新型では旧型よりタンクを1本増量しています。もちろんそれだけでは新時代に求められる性能を出すことはできません。元々、燃料電池自体にも最高出力があり、これと駆動用モーターそれぞれの性能を向上させることで高出力&高効率を実現しています。

航続距離を延長させるために高圧水素タンクは3本に増やし積載位置も変更しました

何よりも注目は航続距離です。旧型はカタログ数値で約650km(JC08モード)でしたが、新型は最も長距離を走れるグレードで約850km走ることが出来ます。

過去、旧型ミライを乗った時はエアコンを常時オンにした状態では約550~570km前後が実際の航続距離でした。一方、新型は従来の燃料消費率とは異なる方式での表記である点などからも実走行での落ち込みは旧型ほどではないのでは、と予想しています。

ちなみに新型は約850kmと書きましたが、上位グレードである「Z」系は燃料消費率の違いもありカタログ値で100km短い約750kmの航続距離となります。

環境車でありながら高級車

前述したように旧型が環境車であることを意識しすぎたことを受けて、新型は従来の環境車のイメージを払拭するエモーショナルなスタイリングを実現しました。デザインコンセプトは「サイレントダイナミズム」でスピード感あふれるプロポーションと、大胆な面の変化による造形を融合させたデザインとしており、低い全高と大径タイヤなどによるクルマとしての素直な美しさを追求しています。

フロントは低いノーズや細身のLEDヘッドランプの造形、リアもフロントと同様のワイド感を統一することで低重心かつスポーティさを強調します。

また新色も含め、全8色のボディカラーを設定。イメージカラーは新規に開発した「フォースブルーマルティプルレイヤーズ」と呼ばれる力強いブルーです。

室内に関しては旧型の4名乗車から5名乗車に変更されました。これに関しても旧型は賛否両論でしたが、やはり5名乗車のニーズは無視できません。ホイールベースの拡大により足元の余裕も生まれました。またセンター部分にはカップホルダー付きの大型アームレスト、さらに一部のグレードにはエアコンやオーディオの操作も可能なタッチ式コントロールパネルも搭載します。

「エクゼクティブパッケージ」は後席VIP仕様と言える機能を数多く搭載します

前席に関してもナビや空調などを統合して表示できる12.3インチの高精細タッチディスプレイや8インチのカラーメーター、Gグレード系には少ない視線移動で多くの情報が把握できるカラーヘッドアップディスプレイも標準装備します。

先進安全装備もさらに進化

トヨタ車に搭載される予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」も最新の機能を搭載しました。

数多くの新機能がある中、交差点の右折時などの衝突回避・被害軽減を支援する「交差点事故対応」のほか、昨今問題になっているペダル踏み間違い事故への対応として、障害物がないシーンでも踏み間違い検知して加速を抑制する「プラスサポート」もディーラーオプションで設定しました。

搭載するカメラやセンサーなどで全周囲を検知することでスイッチひとつで駐車ができます

この他にも駐車時にステアリング、アクセル、ブレーキだけでなくシフト操作も車両側が制御する「アドバンスド パーク」なども設定。さらに今後はAI技術を活用した高度運転支援技術である「Toyota Teammate」による自動車専用道でのハンズオフ走行の販売も2021年に予定されています。

災害時の非常用電源としての期待

ミライには車内に2箇所のアクセサリーコンセントを装備します。1500Wまでの電気製品に対応しますので、非常時の電源としてはもちろん、パソコンや携帯電話などの充電や利用などにも対応します。

外部に電気を供給する外部給電アウトレットは全グレードに標準装備されます

そして水素と酸素だけあれば電力を生み出すことができるFCVの利点を最大活用できるのが標準装備される「DC外部給電システム」です。これを使うためにはDC(直流)をAC(交流)に変換する「外部給電器(別売り)」が必要ですが、接続すれば住宅へ電気を供給することが可能になります。

ゼロ、ではなくマイナスエミッションという新概念

発電のために空気を走行時に取り込むのがFCVの特徴ですが、これを活用して吸入した空気を浄化して排出しようというのがミライの新しいシステムです。

12.3インチディスプレイでマイナスエミッションを視覚的に確認することが出来ます

考え方は非常にシンプルで導入した空気を特殊加工したダストフィルターでPM2.5レベルの細かい粒子まで捕捉します。さらに専用のケミカルフィルターで有害な化学物質を除去すると同時にPM2.5の発生を抑制、これにより走れば走るほど大気を浄化することができるわけです。

環境車の世界では空気を汚さない「ゼロエミッション」という言葉が使われますが、ミライの場合は浄化することで「マイナスエミッション」という仕組みを作り上げました。実際、車内の12.3インチディスプレイには切り替えることで空気の清浄量などを表示できる「空気清浄メーター」の表示も可能です。

環境に優しいだけではなく、ミライには環境を改善する力が搭載されているわけです。

インフラ整備や政策目標も重要

車種にもよりますが、純粋なBEV(電気自動車)の場合、急速充電器を使って約80%の充電するのにも約30分かかります。一方、FCVの場合は設備にもよりますが、約3分で満充填(水素を入れるので充填と呼ばれます)が完了します。過去問題であった水素ステーションの数も徐々にではありますが増えてきています。また10月26日には政府による「2050年カーボンニュートラル」という政策目標が打ち出されたことでそのひとつとして水素は重要な役割を担うことになります。旧型ではやや不便であったステーションの営業時間の短さや充填方法も今後緩和されることでよりユーザーへの利便性も向上するはずです。その点でも新型ミライの市場投入は大きな意味を持っているのです。

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