メクル第512号 未知なるコトへ五感全開に プロダクトデザイナー 富田一彦さん

メッセージと代表作「TOTTOTTO Y-pot」を手に「つくる喜びは最も尊い」と語る富田さん=福岡市、東公園(本人提供)

 プロダクトデザイナーとして世界各国でヒット商品を生み出してきた「トミタデザイン」(福岡(ふくおか)市)の代表を務(つと)める富田一彦(とみたかずひこ)さん(55)にメッセージを寄(よ)せてもらいました。

 プロダクトとは、工業的に作られた製品(せいひん)や商品のこと。家具、食器など身近な品々の機能(きのう)や形を、クライアント(依頼主(いらいぬし))の要望に沿(そ)って考案し、形にするのが仕事です。
 「グローバルに考え、ローカルに行動する」をテーマに22カ国120都市、約600の業者と連携(れんけい)してきました。使い心地が良くて、親しみやすいデザインを実現(じつげん)するために、時には自分の手で作って見せて作り手に説明し、その場で「ベストアンサー」を見つけます。出来上がった物は産地を活性化(かっせいか)させ、作る人、売る人、使う人全ての幸せにつながり、大きなやりがいを感じています。
 7歳(さい)の頃(ころ)、長崎市のグラバー邸(てい)(現グラバー園)にほど近い南山手の古い洋館に転(てん)居(きょ)。日本と西洋が重なり合う風景、坂道、植物や昆虫(こんちゅう)などあらゆるものに刺激(しげき)を受けました。それが今もアイデアの源(みなもと)となっています。小学校では、画家としても活躍(かつやく)した水本侃教諭(みずもとすなおきょうゆ)に教わって絵が大好きに。色彩(しきさい)感覚も磨(みが)かれました。
 高校卒業後、千葉大に進学して工業デザインを学び、著名(ちょめい)デザイナーの木工塾(じゅく)にも通いました。日本の美意識(びいしき)や磁器漆器(じきしっき)など伝統(でんとう)工芸品への関心が高まり、全国の産地を見学しました。
 イギリス・ロンドンの美術(びじゅつ)大学院に留学(りゅうがく)し、家具デザインを通して西洋の合理性(ごうりせい)を学びました。国際(こくさい)的なデザイナーが数多く活躍するイタリア・ミラノに移(うつ)って、自分のアトリエ「意匠二次元半(いしょうにじげんはん)」を始動。「平面と立体の中間を強調し、国際化するニッポンをイメージした作品」を製作し、欧州(おうしゅう)の国際見本市で発表しました。
 30代前半の代表作の一つ、磁器ティーポット「TOTTO(とっと)TTO(っと) Y(ワイ)-pot(ポット)」の商品名は、長崎弁(べん)の「とっとっと」が由来です。石こう型を自分の手で削(けず)り出した作品で、Y字の形状が特徴(とくちょう)的です。
 そうした作品が次第に注目され、日本製の生活用品を扱(あつか)う欧州の商社「COVO(コーボー)」社のアートディレクターに抜(ばっ)てきされました。商品を発案し、本県の波佐見焼(はさみやき)を含(ふく)む世界各国の工場に製造(せいぞう)を発注するほか、品質(ひんしつ)管理、PR、販売(はんばい)方法などを総合(そうごう)的に組み立てる仕事でした。未知の領域(りょういき)のノウハウをどんどん吸収(きゅうしゅう)することができました。
 イタリアでの20年間の創作(そうさく)活動を経(へ)て2011年に福岡市に移りました。斬新(ざんしん)でカラフル、遊び心いっぱいの「トミタリア」(トミタとイタリアを掛(か)け合わせた造語)ブランドの作品は、日本でも強いインパクトを与(あた)えました。
 15年には長崎県美術館の主催(しゅさい)で「トミタリア-富田一彦の世界-」展が開かれました。椅子(いす)やクッション、照明器具、食器、弁当箱(べんとうばこ)など約100種類を展示(てんじ)し、1万6千人超(ちょう)が来場してくれました。その1人から「富田さんは長崎の誇(ほこ)り」と声を掛けられたことはとても光栄で、大きな励(はげ)みになっています。
 若い時こそ、アンテナを研(と)ぎ澄(す)まし、時代を凝視(ぎょうし)し、耳を傾(かたむ)け、匂(にお)いをかぎ回ってほしいです。未知なるコトが充満(じゅうまん)しているこの世界で、感性を、五感を全開にしましょう。センスは磨いた人だけに備(そな)わります。まねが自己(じこ)流になるまで何度でも繰(く)り返すのです。日本人は本来職人(しょくにん)気質な民族。「つくる喜び」は最も尊(とうと)いものなのです。

 【プロフィル】とみた・かずひこ 1965年長崎市生まれ。市立浪平(なみのひら)小(現大浦(おおうら)小)、梅香崎(うめがさき)中、県立長崎東高、千葉大工学部工業意匠科を経て、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(王立美術大学院)の修士号(しゅうしごう)MA(マスター・オブ・アート)を取得。92年からイタリアで活動。2011年から福岡市在住。ドイツ・デザインPLUS賞など多数受賞。イタリアのボローニャ大工業デザイン科非常勤講師(ひじょうきんこうし)も務める。

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