やり過ぎ指導?女子生徒の髪に黒染めスプレー

「体罰だ」「厳しい指導必要な場合も」

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千葉市内の高校生(本文とは関係ありません)

 千葉県内の県立高校で昨年、女子生徒の毛先が赤く傷んでいるとして教諭が黒染めスプレーを吹きかけた指導を巡り、「同意しておらず、体罰だ」と訴える生徒側に対し、県教育委員会は「同意は得ていた。時に厳しい指導が必要な場合もある」としている。「教師と生徒が信頼関係を築けない状況での指導は無力だ」(専門家)との指摘も上がっており、生徒指導のあるべき姿が問われている。髪色が生まれつき茶色がかっている記者(29)も学生時代に経験した頭髪指導を振り返りながら考えた。(共同通信=永井なずな)

 ▽門出の日に

 昨年3月7日の卒業式当日、当時高校3年だった女子生徒は、毛先が赤くなっているとして書道室に呼び出された。複数の教諭が生徒を囲み、生徒の頭からポリ袋をかぶせ、事前に用意していた黒染めスプレーをかけた。生徒と母親は後日、精神的な苦痛を受けたとして県弁護士会に人権救済を申し立てた。

 生徒は弁護士会の聞き取りに「ずっと拒否していたが、卒業式に出られなくなるのが怖かったので従うしかなかった。同意はしていない」「高1と高2の時に白髪染めを使用していたが、式の日は地毛だった」と説明した。

千葉県弁護士会が県教委などに提出した警告書

 弁護士会は9月、黒染めスプレーを吹きかける行為は「精神的に大きな屈辱を与え体罰に準じる」とし、県教委や学校に警告書を提出。生徒の表現の自由や自己決定権の侵害に当たると指摘し、原則的に生徒指導に用いられるべきではないとの見解を示した。

 ▽食い違い

 県教委によると、同校は校則で「着色や脱色、カールおよび流行を追う髪形は禁止」と規定。違反した場合は「指導を加え、一定期間に直さない場合は直してから登校させる」としている。同校は毎月の頭髪検査で、髪色見本と生徒の髪色を照合・記録していた。

千葉県教育委員会が入る千葉県庁

 式の数日前の検査で生徒の髪が赤かったため、縛るか切る、染めるよう指導したが改善はされなかったという。学校側は「赤くなっているのは、以前染めた時の名残」と判断し、地毛だとする生徒の主張は認めなかった。ポリ袋を頭にかぶせたのは、制服が汚れないための配慮だったという。県教委は「同意が無ければ無理な指導に当たるため、教育として成り立たない」と説明。本人の同意はあったとの見解は維持しつつも、「生徒が傷ついたという事実は重く受け止める」とし、今後の対応を検討する方針だ。

 ▽記憶

 記者が通学していた埼玉県内の公立中学や高校も、髪の着色やパーマなどは禁止だった。地毛証明書を出した記憶はないが、進級・進学して担任や生徒指導の先生が替わるたびに説明する必要があり、着色していない旨を親に一筆書いてもらい提出したこともあった。

 事情を知らない違う学年の先生に呼び止められ「標準より明るい」と指導された時は、「あなたの髪の色は変だ」と言われたようで嫌な気持ちになった記憶がある。

 一方で、高校受験を控えた時期に「外見でマイナス評価されるリスクを減らしたい」と自主的に黒く染めようか悩んでいたところを「そのままが良いよ。大丈夫」と勇気づけてくれた先生もいた。

 当時を振り返ると、10代の多感な自分にとっては、周囲の教師のささいな言動が、学校への信頼や自己肯定感を大きく左右するものだったと感じる。

 ▽対話で

 学校教育の教師と生徒の関係について研究している鳴門教育大の阿形恒秀(あがた・つねひで)教授は「『決まりだから守れ』という考え方は、単なる管理教育だ」と指摘する。本人の同意の有無に関しては「生徒が意義を申し立てられない雰囲気なら、生徒の表面的な言動だけで『合意があった』と判断するのは問題があるかもしれない」とも語る。その上で「流行の髪形に気を取られるのではなく勉学や部活動に力を発揮してほしいという願いから、頭髪に一定の制約を設けることは教育上認められる範囲の指導だ」と校則の役割には理解を示す。

鳴門教育大の阿形恒秀教授(大学のホームページより)

 阿形さんは大阪府立高校の教諭を約30年経験し、校則に違反して染色やパーマをかけて指導に従わない生徒にも接した。「(生徒の振る舞いは)頭髪指導に対してだけでなく、教師や世間への反発のように感じた。向き合う上で教師側に必要なのは、時に生徒を叱り、励まし、対話を重ねることだ」と力を込める。

 「外見でなく、内面を磨くことの大切さを教師が丁寧に根気強く説明し、生徒と合意を形成するプロセスにこそ教育的な意味がある」との考えから、校則を巡る議論の活性化や、地毛を黒く染めさせるといった不適切な校則の見直しに向けた国や各自治体の動きを肯定的に受け止めている。

 記者が以前、勤務していた佐賀県で今年3月、生徒指導に関する新たな動きがあった。県は、県立中学と高校に向け、校則が子どもの人権を侵していないかや、必要最小限の規定になっているか確認するよう通知した。校則を見直す際には、ホームルームや生徒会といった意見交換の場を設け、「生徒と話し合いながら策定する」よう求めている。県教委の担当者は「子ども達が学校作りに主体的に関わり、その規則がなぜ必要か自分の頭で考える力を養うことが大切だ」と語った。