重力が生み出した作品。南天の“ろ座”に輝くアインシュタインリング

アインシュタインリング「GAL-CLUS-022058s」、通称「Molten Ring(溶けたリング)」(Credit: ESA/Hubble & NASA, S. Jha)

無数の銀河を背景に写る、弧状にゆがんだ不思議な姿をした天体。こちらは南天の「ろ座」(炉座)の方向にある天体「GAL-CLUS-022058s」を捉えた画像です。研究者からは「Molten Ring(溶けたリング)」と呼ばれています。

この天体の正体は「重力レンズ」効果によって像がゆがんで見えている遠方の銀河です。重力レンズとは、遠くにある銀河などの天体と私たちの間に存在する別の銀河や銀河団の重力によって、遠くの天体を発した光の進む向きが曲げられてしまい、その像がゆがんで見える現象です。

なかでもゆがんだ像がリング状に見えるものは、一般相対性理論にもとづき重力レンズ効果の存在を予言したアルベルト・アインシュタインにちなんで「アインシュタインリング」と呼ばれています。GAL-CLUS-022058sが「溶けたリング」と呼ばれているのは、リング状に見えるその外観と、「ろ座」という星座の名前に由来しています。

「溶けたリング」の場合、像がゆがめられた銀河と地球の間に位置する銀河団、その中心にある楕円銀河(画像中央)によって重力レンズ効果がもたらされていて、銀河団に属する別の銀河による効果も追加されているといいます。遠くの銀河、別の銀河や銀河団、そして地球が直線状に並んだことで偶然生じる重力レンズ効果は、遠くの天体の姿をゆがめるだけでなく、暗くて観測が難しい遠くの銀河を研究する貴重な機会を与えてくれます。

冒頭の画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡に搭載されている「広視野カメラ3(WFC3)」によって可視光線と赤外線の波長で観測されたもので、欧州宇宙機関(ESA)からハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚として2020年12月14日付で公開されています。

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Image Credit: ESA/Hubble & NASA, S. Jha
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏

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