外国人実習生との交換日記50冊 「一冊一冊が大切な思い出」五島の縫製会社社長

実習生の日記を見つめる桑原さん。これまでにつづられたノートは50冊以上=五島市、福江サンヨー

 異国からやって来た“わが子”たちと交換日記を続けている。五島市下崎山町の縫製業、福江サンヨーの桑原勝利社長(82)。12年前から受け入れてきた外国人技能実習生に毎日の出来事や胸の内を書いてもらい、コメントを返したりはんこを押したり。一人一人の思い出と共に保管するノートは50冊を超えた。

■はんこ
 タンタンタン…。10日夕方、ミシンの音が響きわたる同社の作業場。カンボジア人実習生の20~30代女性8人が、真剣な目つきでミシンを操作している。作っているのは医療用ガウンやスクール水着。「器用で仕事も早い。この子たちがいて、とても助かる」。桑原さんは目を細めた。
 隣の事務所に8冊のノートが置かれていた。実習生がそれぞれ退勤時に持ち帰り、寮で1日の振り返りを書き込んでから翌朝に提出する。「しごとをがんばりました」「きょうはうみへいきました」。一つ一つに目を通すのが桑原さんの日課。日本語を読むのが苦手な実習生のノートには、読んだことが一目でわかるようにはんこを押す。

■胸の内
 同社は2008年から、現在までに延べ30人余りの実習生を受け入れてきた。1期生は中国出身の女性3人。桑原さんは接し方に戸惑っていた。実習生が直接言えない会社への不満や体調などを書いてもらおうと、交換日記を始めた。
 「勉強熱心な子たちで、『この言葉はどういう意味?』『どんなときに使う?』と質問攻め。私も勉強しないといけないくらい」。実習生の日本語はめきめき上達した。仕事の失敗や母国の家族の話、五島での暮らしなどについて、ノート上で文通できるまでに。1期生3人は日本語検定試験2級を取得し、1人は日本企業に就職した。
 ある中国出身の女性が、他の実習生から出身地が田舎だとからかわれて悩んでいると、日記で相談してきたこともあった。桑原さんは女性を励ます返事を書き、仕事中にも実習生たちの関係にそれとなく目を配った。桑原さんと実習生それぞれが1対1で交わす日記だからこそ、さまざまな胸の内がつづられ、信頼関係が深まっていった。

■思い出
 今、多くの技能実習生が来日し、全国各地で汗を流している。桑原さんは「家族のため、出稼ぎなどをして懸命に働いた私たち世代と重なる。全国では実習生に関するいろいろな問題もあるけれど、私たちがしっかりコミュニケーションを取っていれば、気持ちに応えてくれる」と語る。
 日記は多い人で3冊ほどになる。桑原さんは卒業した実習生が残したノートの束を見詰めて言った。「具合が悪い子を病院に連れて行ったり、誕生日プレゼントをもらったり。一冊一冊が大切な思い出ですよ」

医療用ガウンを作るカンボジア人実習生たち=五島市下崎山町

© 株式会社長崎新聞社