教諭も困惑、制服検査「あれはセクハラ」 校則は誰のためにあるのか

 1980年代に全国で校内暴力が問題となり、「沈静化」のために子どもたちを管理するかのように厳しい校則が取り入れられた。40年が経ち社会や子どもたちが多様化している現在も、男女別に髪形を規定し、下着の色を指定するなど旧態依然とした校則がなかなか変わっていないようだ。教諭の中には、理不尽なルールや、その運用に違和感を抱き、悩んでいる人もいる。

 校則はいったい誰のため?

3回にわたって考える2回目です。(共同通信=小川美沙)

 ▽時間がない

 九州地方の中学に勤務する女性教諭は以前、女子生徒と保護者から相談を受けた。エアコンの入った教室は夏でも肌寒く感じ、薄手のカーディガンを着たいという。当然認められると思い、生徒指導担当の教諭に申し出ると「カーディガンの着用期間は冬のみが決まり」と拒否された。

 納得いかないと感じつつも、生徒に「そんなルール、守らなくていいよ」とは言い切れない。学校の同調圧力は強く、ルールを守らないと「あの子だけずるい」「わがまま」などとレッテルを貼られることがあるからだ。女子生徒には「生徒総会で議題にしてみたらどうかな」と提案するのが精いっぱいだった。

 どう対応するのが良かったのだろう。同僚に相談したところ「生徒と議論する時間なんてないでしょ、めんどくさい。好感度、上げたいの?」と言われ、ショックだった。確かに、生徒とじっくり向き合う余裕はない。でも「厳しいルールを押し付けて、枠からはみ出したら、子どもや保護者が悪いと突き放してしまっていいのか」と、悩みは一層深くなった。

生徒指導提要と、校則に関する記述のあるページ

 ▽従わせる威力

 九州地方の40代の女性高校教諭は、女子生徒の制服スカート内側に記名があるか検査する係に指名され、困惑したことがある。「スカートを取り違えないように」という検査の理由も、必要以上に生徒を子ども扱いしているように思えた。断り切れず、体育館に女子生徒を一列に並ばせてチェックした。「あれはセクハラ」と今も悔やむ。

 昨今、体罰を許さない風潮が強くなった代わりに、厳しい校則の運用が「生徒を従わせる威力になっている」と感じる。子どもたちは「内申書に響く」「受験に影響する」などと言われれば黙るしかなく、「考えることさえあきらめさせている」と危機感を抱く。

 その威力をまざまざと感じたことがある。10年以上前、勤務していた校則が甘めの学校で、校長が替わってから厳しい身だしなみ検査が導入されるようになった。生徒は外見上、落ち着いたように見え、保護者や地域からも「高校生らしくなった」と高評価だった。「学校から見ると、校則の運用を厳しくするといろんな問題が一挙に解決するかのように思えてしまう」。校則を緩めるのはそう簡単なことではないだろうと感じている。

 ▽トップダウン

 「子どもの荷物が重すぎる。部活の道具も含めると10キロにもなる」「骨に悪影響が出る」。福岡県の男性教諭(56)が3月まで勤務していた中学では2年前、複数の保護者からの要望を受けて協議した結果、生徒の判断で教科書などを置いて帰る「置き勉」を生徒に認めることにした。子どもにとっては望ましい結果になったと思うが、これで良かったか疑問が残った。当事者である生徒に議論させず、決定にも関わらせなかったからだ。

 学校の決まりに関する不満や疑問は生徒総会で話し合うべきだと思うが、近年は「校則は教員が決めるもの」だとして議題に上げさせない例があると聞く。「トップダウンで、子どもが意見を言う場がない。民主主義を教える場になっていないのでは」

 ▽みんな同じ

 文部科学省の「生徒指導提要」(2010年)によると、生徒指導は①児童・生徒に自己存在感を与える②共感的な人間関係を育成する③自己決定の場を与える―の3点に特に注意する必要があるとしている。

熊本大の苫野一徳准教授(教育学・哲学)によると「学校のシステムは『みんな同じ』に価値を置くため、教諭が厳しいルールに違和感を持っても異を唱えることは難しく、苦しんでいる人もいる」と話す。忙しさのあまり、ルールが何のためにあるのか、良いものなのか、子どもとともに問い直す機会も少ないという。

熊本大・苫野一徳准教授(本人提供)

 「鉛筆は5本まで」「手を挙げる時は指先をそろえ、ひじを伸ばす」「黙って掃除する」…。苫野准教授は、学習や生活に関する決まりごとが、近年どんどん細かくなっている学校も少なくないと指摘。背景には、ベテラン教員の大量退職などによって、マンパワー不足を補うための「指導のマニュアル化」もあるとみる。テストで測れる学力を短期間で上げるためにもこうしたマニュアル化された指導が用いられているとみられ「学校の横並び主義に拍車を掛けている」と話す。

 苫野氏は「本来ならば、多様化する子ども一人一人を大事にした教育の在り方を考えるべきだが、対応できていない。社会の担い手を育てる場で上からルールを押しつけるのでは学校の本質にもとる」と厳しい目を向ける。

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