【狙われるアスリート】(上)競技場で盗撮被害 女子選手が打ち明けた恐怖と憤り

性的な撮影被害を打ち明ける女子陸上選手。「隠し撮りは罪に問うべき。小中学生もひとごとと思わないでほしい」と話す=11月下旬、県内

 各種スポーツ大会に出場するアスリートが性的な意図で盗撮され、画像や動画がSNSなどで拡散される問題が深刻化している。JOCなど中央7団体は11月、卑劣な「性的ハラスメント」として共同声明を発表したが、現行法では取り締まりが難しい面もある。いちご一会とちぎ国体・大会を2年後に控える栃木県の実態を探った。

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 県内の女子陸上選手(19)は今でも、競技場で隠し撮りされた憤りを忘れない。「真剣に競技に向き合う気持ちを踏みにじられた」。思い返すと悔しさがこみ上げる。

 2年前、短距離走のレース直後。ゴール付近にいた50歳代くらいの男に違和感を覚えた。両腕を組んで立ち、不自然なほど動かない。動くのはスマートフォンを持つ手首だけ。「まさか。勘違いかも」。試しに動き回ると、連動するようにスマホの向きが変わった。

 近くにいた父に助けを求め、逃げようとする男を取り押さえた。本来ならば関係者以外は入れない場所。大会本部で確認すると、セパレート型のユニホームから肌が露出した自分の背中が映っていた。

 「変な写真を撮る人のうわさは知っていたけど、自分が撮られるなんて。気持ち悪い」。駆けつけた警察官からは、別の大会で撮ったと思われる中学生の写真も出てきたと聞いた。

 現役アスリートが声を上げ、日本オリンピック委員会(JOC)などが被害撲滅に向けて動きだした性的画像撮影問題。選手の胸元や股間などを狙った画像や卑猥(ひわい)な言葉が会員制交流サイト(SNS)に拡散され、アスリートの尊厳を傷つけている。

 一度インターネット上に流出した画像を完全に消し去るのは難しく、半永久的に残る「デジタルタトゥー」になりかねない。一部の写真はさまざまなサイトに転載されたり、卑猥な内容に加工され、DVDなどで売買される事例もある。

 会場が広く、観客席の取り締まりが難しい陸上競技は格好のターゲットになりやすい。「あの時気がつかなかったらSNSに流されていたかも」。被害に遭った女性の恐怖は今も続く。

 主催者側も手をこまねいている訳ではない。栃木陸上競技協会は撮影申請者に専用の帽子着用を義務付け、スタート位置の後方など、客席から角度的に狙われやすい場所を撮影禁止エリアにしている。だが盗撮は客席からだけとは限らない。同協会関係者は「被害はゼロにならない」という。

 県高体連陸上専門部では毎年2、3件の被害が報告される。規制をかいくぐり、女子の試技になるとカメラを構える常習者がいる上、巡回を徹底しても純粋な撮影動機かどうかの判断は極めて難しいからだ。

 藤田明人(ふじたあきひと)専門委員長(50)は「選手が競技に集中できるようにしたいが、対策はいたちごっこ。今以上の対応はマンパワー的に厳しい」と頭を悩ませている。

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