今年も残りわずか。新型コロナウイルス感染症の第3波到来により、年末年始の旅行や帰省をはじめとする外出を自粛するムードが広がっている。今度の正月は、これまでとはまるで違う過ごし方になることが予想される中、おせちの売れ筋にも変化が出ている。(共同通信=榎並秀嗣)
▽家庭でソーシャルディスタンス
「『おひとり重』が売れています」
そごう横浜店(横浜市)の担当者はそう語る。「おひとり重」とは、1人前のおせちを折り詰めにしたもの。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、新たに発売した。
そごう横浜店では、1品ずつカップに小分けされた「カップおせち」の売れ行きも好調という。
同店の担当者は理由について「家族間での感染を防ぐために、おせちを食べる際も接触を極力避けたいという心理が働いているのだろう」と分析する。
この傾向は他のデパートでも共通している。三越日本橋本店(東京都中央区)や阪急百貨店うめだ本店(大阪市)などでも1人前に分けられたタイプのおせちが好評だ。三越日本橋店では取り扱う1人前おせちの商品数をこれまで以上に増やして対応している。
ソーシャルディスタンス(社会的距離)をしっかり取って、おせちを食べる―。今度の正月は多くの家庭でそんな風景が見られるのかもしれない。
▽高額おせちも人気
「動きが悪い」(阪急百貨店うめだ本店)のが、5人から6人用の大型おせち。帰省しない人が多くなることで、家族や親族が集まる機会が減る影響で、2人から3人用のおせちが選ばれているためだ。
国内インターネット販売大手の楽天が顧客千人に実施したアンケートによると、半分以上の人たちが「正月は帰省しない」と回答している。
一方、人気を集めているのが高価格帯のおせちだ。三越日本橋本店は有名料亭が手がけた5万円以上のおせちが売れ筋という。同店担当者は「帰省や旅行に行けないのなら、その分をおせちに回そうと考えたのでは」とする。
楽天のアンケートも、帰省しないことで浮いたお金を食に消費する動きが見られるとしている。
それ以外には、「好きなものだけを食べたい」という需要に応えるため、肉や魚介類に特化したおせちや、中華料理を詰め合わせたおせちも好評だ。
▽故郷の親へ
おせち全体の売り上げは前年を大きく上回っている。今月前半の段階で、そごう横浜店は前年比約130%、阪急百貨店うめだ本店も2桁近い伸びを記録している。
通販でも同様だ。毎年15万個を超えるおせちを売り上げ、楽天市場のおせち部門で何度も売り上げナンバーワンに輝いた「博多久松」を運営する久松(福岡県粕屋町)は予定していた生産数に10月半ばで達してしまった。そこで、急きょ増産を決定したほど。売り上げも前年比でおよそ2割伸びているという。
おせちの受け取り方法も変化している。店頭で受け取るのではなく宅配してもらう人が増加しているのだ。
そごう横浜店によると、宅配先として自宅のほか帰省先を指定する人も少なくない。同店は「故郷に戻ることができないので、せめておせちくらいは同じ物を食べたいと考えているのでは」と推測している。