捕手は中日木下、中堅は阪神近本…データの専門家が選ぶ守備のベストナインは?

中日・木下拓哉(左)と阪神・近本光司【写真:荒川祐史、津高良和】

データ分析を手がける「株式会社DELTA」が「FIELDING AWARDS」を選出

野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAは、2020年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する「1.02 FIELDING AWARDS 2020」を選出した。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものとなる。

○評価の対象選手
シーズン500イニング以上を守った選手

○選出方式
9人のアナリストがそれぞれの評価に基づき、対象選手に1位=10ポイント、2位=9ポイント…10位=1ポイント、11位以下は0ポイントといった形で採点し、合計ポイントがポジション内で最も高かった選手を選出。

以下が今季の選出選手となる。

捕手:木下拓哉(中日)

捕手の1位は木下拓哉となりました。木下は今季初めてシーズン500イニング以上をクリアし評価の対象となった選手ですが、アナリスト9名のうち8名から1位票を獲得し88点を獲得しています。捕手については、2018年よりDELTA取得の投球データを使ったフレーミングも一部アナリストは評価の対象としています。

木下はこのフレーミング評価で他の追随を許さぬ圧倒的な成績を残しました。捕手にはほかにも、盗塁阻止などさまざまな能力が求められますが、ほかの要素では覆しきれないほどの圧倒的な大差をつけたことが、木下がトップの評価となった最大の理由となったようです。中日投手陣躍進の裏に、木下のフレーミングがあると評価するアナリストもいました。

また、4年連続日本一を支えた甲斐(ソフトバンク)はほかの項目では好成績を残しましたが、フレーミングがマイナス評価で4位に。ほかには大城卓三(巨人)や梅野隆太郎(阪神)など、セ・リーグの捕手の健闘が目立つというコメントもありました。

一塁手:ダヤン・ビシエド(中日)

一塁手も木下と同じ中日のダヤン・ビシエドがトップに。ただ大差をつけて1位となった木下とは異なり、こちらは2位の村上宗隆(ヤクルト)とわずか4ポイント差の接戦でした。1位票が3選手に割れたのはこの一塁手だけ。村上のほかに中島宏之(巨人)も高評価を得ました。

ビシエドはUZRの要素の1つである打球処理評価(RngR)において、対象一塁手トップの4.1を記録。守備範囲の広さだけでなく、失策抑止を通じた貢献を表す指標ErrRでも一塁手トップと、打球を堅実に範囲広く守ることで評価を高めていたようです。一塁手特有のプレーであるワンバウンド送球を処理するプレーを評価に組み込むほか、打者の左右別の打球傾向の違いに注目し、分析を行ったアナリストもいます。

巨人・岡本和真【写真:荒川祐史】

二塁手は西武の外崎、三塁手は巨人の岡本が圧倒的な高評価

二塁手:外崎修汰(西武)

二塁はほぼ満点の89点を獲得した外崎を選出しました。外崎は打球処理貢献に優れていたほか、二塁手に重要な併殺を完成させることによる貢献(DPR)の点でも高い評価を得ています。守備面でのオールラウンドな働きが評価され、飛び抜けたポイントを獲得しました。

外崎以外で唯一1位票を獲得したのは吉川尚(巨人)。今季、シーズン無失策記録を達成した菊池涼介(広島)は3位と、波乱の展開となりました。菊池は失策の少なさという要素(ErrR)では高評価を得ましたが、より差がつきやすい打球処理の面では外崎や吉川尚に及ばなかったようです。

打球処理をさらに捕球と送球に分けて評価を行ったアナリストからは、菊池は送球に秀でているものの捕球の面ではマイナスになったという評価もありました。

三塁手:岡本和真(巨人)

三塁は満点で岡本がトップとなりました。岡本は昨季まで2年連続で一塁手で下位評価を受けていましたが、三塁コンバート初年度で素晴らしい守備貢献を見せています。三塁は一塁よりも守備力の高い選手が多いポジションであり、より競争力が高いポジションへのコンバートでこれほど評価が好転するのは異例のことといえます。

2位は岡本には大差をつけられたものの、全アナリストから2、3位票を獲得した高橋(中日)。高橋は昨季に続き2年連続の2位評価となりました。これまでの三塁手の受賞者である松田(ソフトバンク)、宮崎(DeNA)、大山(阪神)はいずれも中位以下に沈む結果に終わっています。

遊撃手:源田壮亮(西武)

ルーキーイヤーから3年連続満点で受賞中の源田が2020年もトップ評価となりました。今季は満場一致とはいきませんでしたが、88ポイントとほぼ満点に近いポイントを獲得しています。二塁手で選出の外崎とのコンビで併殺を奪うプレーが非常に優れていたようです。ただ例年に比べると打球処理の面では本調子ではなかったという声もありました。

2位以下は坂本勇人(巨人)と京田陽太(中日)が僅差となっています。昨季の坂本の評価は11選手中6位とやや順位を落としましたが、今季は1位票も獲得するなど高い守備力を見せていたようです。今回は、UZRに球場ごとのゴロアウトのとりやすさで補正をかけ分析・評価を行ったアナリストもいました。ただ今季の遊撃手に関しては順位が大きく変動するほどの差は生まれていなかったようです。

ヤクルト・青木宣親【写真:荒川祐史】

左翼では38歳の青木が驚異の数値、中堅の近本はアナリスト全員が1位に

左翼手:青木宣親(ヤクルト)

左翼手は、今季中堅から本格的にコンバートされた青木を選出した。青木は広い守備範囲に加え、送球や走者を自重させることで進塁を食い止める走塁抑止貢献(ARM)でも素晴らしい数値を記録していました。青木の38歳という年齢を考えると、驚きを与える結果だったと言えます。

青木以外では島内宏明(楽天)が1位票を1票獲得。それ以外のアナリストからもすべて2位票を獲得し、2位につけました。左翼のポジションは例年、守備面でパ・リーグ選手がセ・リーグ選手を圧倒する傾向が続いていました。これについては、指名打者制のないセ・リーグ球団は守備に目をつぶり、左翼に打力重視の選手を配置することが多いためではないかという指摘がなされていました。ですが、今季はこれが逆転し、セ・リーグの左翼手のほうがより好成績を残していました。

中堅手:近本光司(阪神)

中堅手は、アナリスト全員から1位票を獲得した近本光司を選出しました。UZRでも突出した値を残していた近本ですが、異なる要素も用いたアナリストの分析を通じても、打球処理能力は圧倒的だったと評価されました。

ほかのポジションとは異なり、中堅手の2位以下は僅差でした。大島洋平(中日)は3位票から8位票まですべて獲得するなど評価が分かれました。昨季、左翼手で満点受賞だった金子侑司(西武)も競争の激しい中堅手の中では傑出した成績を残せていません。

右翼手:大田泰示(日本ハム)

右翼手は大田が初の選出となりました。こちらもアナリスト全員から1位票を集めました。大田は打球処理評価に加え、左翼の青木と同じく進塁抑止貢献(ARM)でも高評価を得ています。ただ、1位に選出したアナリスト間でも意見が割れる部分も見られ、大田が圧倒的だったという見解もあれば、捕球(打球処理)に関しては松原聖弥(巨人)が上回っており、僅差であったという見解もありました。(DELTA)

DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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