あれが「はやぶさ2」の次なる目的地。拡張ミッションの目標を「すばる望遠鏡」が撮影

国立天文台は12月18日、ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」が小惑星「1998 KY」の撮影に成功したことを発表しました。1998 KYは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」が直接観測を目指す拡張ミッションの目標天体です。

すばる望遠鏡が撮影した小惑星「1998 KY26」(水色の線で示された中央の光点)(Credit: 国立天文台)

こちらの画像の中央、2本引かれた水色の線を延長して交わる場所に写っているかすかな点が、すばる望遠鏡によって撮影された小惑星1998 KYです。小惑星の動きに合わせてすばる望遠鏡を動かしながら撮影された2分間露出の画像5枚から作成されているため、背景の星々は斜め横方向に流れる点線として写っています。

国立天文台によると、1998 KYは2020年12月中旬~下旬にかけて地球からおよそ0.47天文単位(約7000万km)まで接近しており、約3年半ごとに訪れる観測の好機を迎えています。しかし、1998 KYの推定直径は「はやぶさ2」がサンプルを採取した小惑星「リュウグウ」(直径約900m)の30分の1にあたる30mと小さく、観測好機といえどもその姿を捉えるには大型の望遠鏡が欠かせません。

ハワイ現地時間の2020年12月10日2時頃に行われた撮影時の1998 KYは「ふたご座」の方向にあり、その明るさは25.4等級(測定誤差0.7等級)だったといいます。なお、今回の観測は1998 KYの軌道の情報(軌道要素)の精度を向上させるために実施されたもので、すばる望遠鏡だけでなくヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」でも観測が行われています。

「はやぶさ2」は去る12月6日に地球へ接近し、リュウグウで採取したサンプルが詰まった再突入カプセルを分離しました。無事回収されたカプセルには目標の0.1gを上回る約5.4gのサンプルが入っていることが確認されています。いっぽう「はやぶさ2」本体はカプセル分離後も拡張ミッションへ向けて飛行を続けていて、1998 KYには2031年7月に到着する予定です

「はやぶさ2」ミッションマネージャーの吉川真氏は「今回のすばる望遠鏡での観測は、『はやぶさ2』の拡張ミッションにとって非常に貴重なデータになっただけでなく、今後のミッションの弾みともなりました。すばる望遠鏡の皆様に感謝いたします」、国立天文台ハワイ観測所所長の吉田道利氏は「このデータが、『はやぶさ2』の新たなミッションのお役に立てれば幸いです」とコメントしています。

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1998 KYは前述のように推定される直径が30mと小さいことに加えて、約11分という短い周期で自転しているとみられています。これほど小さく高速で自転する小惑星が直接観測された例はこれまでになく、「はやぶさ2」が到着すれば世界初の成果となります。

また、このサイズの小惑星は100年~200年に一度のペースで地球に落下するとされています。1908年6月には1998 KYよりも一回り大きな直径約40mと推定される天体がシベリアへ落下し、約2000平方kmに渡り木々がなぎ倒されたツングースカ大爆発が引き起こされました。2013年2月には直径10m前後と推定される隕石がロシア中部のチェリャビンスクへ落下し、1000名以上が負傷しています。

小惑星の落下はフィクションではなく実際に被害をもたらす災害のひとつであり、その構造や組成を調べ、衝突の可能性を予測し、できることなら軌道を変えて被害を防ぐための取り組み「プラネタリー・ディフェンス(惑星防衛)」が各国で進められています。「はやぶさ2」の拡張ミッションにおける1998 KYの観測結果は、私たちの命や暮らしを守る上でも役立てられることになるのです。

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Image Credit: 国立天文台
Source: 国立天文台
文/松村武宏

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