「幕張の防波堤」が選ぶMVPは鷹モイネロ リリーフ経験者だからこそ評価する“8回の難しさ”

ソフトバンクのリバン・モイネロ【写真:荒川祐史】

「柳田、千賀に比べ目立たない役割だが、スポットを当てないと凄さが伝わらない」

17日に都内で行われた「NPBアワード2020」で巨人の菅野智之投手、ソフトバンクの柳田悠岐外野手がセパ両リーグのMVPに選ばれた。記者投票で選ばれたこのMVPだが、球界OBが見ると、果たしてMVPは誰になるのか? 現役時代にロッテや米大リーグ・インディアンスなどで通算234セーブをマークした小林雅英氏は、ソフトバンクのセットアッパーとして活躍したリバン・モイネロ投手を独自の視点からMVPに選出した。

「僕の見方ではモイネロしかいない」とまで断言した小林雅氏。最速158キロを誇り、チェンジアップ、スライダー、カーブと変化球も多彩な25歳のキューバ人左腕は今季50試合に登板し、2勝3敗1セーブ38ホールド、防御率1.69をマークした。

これらの成績以上に驚異的だったのは奪三振率の高さ。48イニング投げて77三振を奪っており、奪三振率は14.44になる。左腕が奪った144アウトの半分以上を三振で取っていることになる。「奪三振が多いということは、野手のエラーやポテンヒットも起こりにくいわけで、圧倒的なパフォーマンスだったといえる」と小林雅氏は強調した。

7月10日の楽天戦では1-1の同点で8回に登場。鈴木大、ブラッシュ、浅村を3者三振に仕留めたシーンは衝撃的だった。浅村はカウント3-2から、虚を突いた真ん中のカーブに手が出ず見送った。まさにモイネロの凄みが凝縮された登板の1つだったと言えるだろう。

今季のモイネロは50試合に登板し、失点したのはわずか4試合しかない。セットアッパーとして主に8回を任され、守護神の森へ繋ぐ役割をほぼ完璧にこなした。現役時代に抑えを務めた小林雅氏から見ても、8回を抑える役割は極めて難しいという。

巨人・菅野智之【写真提供:読売巨人軍】

「相手のいい流れも、追いつこうとする戦意も、上からぐしゃっと押しつぶした」

「抑えは点を取られたとしても追いつかれなければOKだが、8回は無失点で相手打線の勢いをシャットアウトすることが望ましい。しかも、抑えの出番が基本的にリードした展開に限られるのに対し、セットアッパーは同点でもマウンドに上がることが多いですから。相手のいい流れも、追いつこうとする戦意も、上からぐしゃっと押しつぶしてしまった今季のモイネロは、最大限に評価されるべき」

歴史的に見ても、相手打者の左右に関係なく1イニングを任されたリリーフ左腕で長きに渡って活躍した投手は少ない。同氏も「岩瀬仁紀氏(元中日)、河本育之氏(元ロッテ)、石井弘寿氏(現ヤクルト投手コーチ)、山口鉄也氏(現巨人2軍投手コーチ)くらいではないか」と、その希少価値を認める。

「主砲の柳田、エースの千賀らに比べると目立たない役割だが、時にはスポットを当ててあげないと、なかなか凄さを感じてもらえない」と小林氏はモイネロを熱烈に推し「柳田や千賀が活躍するのは、高い年俸をもらっているのだから当たり前ですから」とも指摘した。

一方でセ・リーグとなると、小林雅氏も巨人・菅野智之投手で異論はないという。開幕13連勝を含む14勝2敗、防御率1.97でチームの独走Vを牽引した価値は絶対的だ。「菅野は極めて高い確率でリードを保って7回まで投げてくれるので、ブルペンは準備しやすい。彼がカードのアタマで勝ってくれるから、後続の先発ローテ投手は余裕を持ってマウンドに上がれる。チームに及ぶす効果は計り知れない」と指摘した。

様々な評価、視点があり得るが、それでも今季の菅野だけは、リーグ優勝への貢献度という点で抜群にして揺るぎないようだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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