国内美術館での初個展:「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」が東京都現代美術館で開催

現代のアートシーンに独自の位置を占める作家、マーク・マンダースの国内美術館では初となる個展「マーク・マンダース ―マーク・マンダースの不在」が東京都現代美術館で行われる。会期は2021年3月20日〜6月20日。

マーク・マンダース スタジオ風景 -

マンダースは1968年オランダのフォルケル生まれ。ベルギーのロンセを拠点に活動している。虚構的な枠組みをベースとした類のないビジョンを示す独創的な作品世界は、彫刻の概念を掘り下げる個々の作品の質とあいまって、世界的に高い評価を受けてきた。サンパウロ・ビエンナーレ(1998)、ドクメンタ11(2002)、ヴェネツィア・ビエンナーレ(2011)など多くの国際展に参加。日本での主な展示に「あいちトリエンナーレ」(2016)や、金沢21世紀美術館で現在開催中の「ミヒャエル・ボレマンス マーク・マンダース ダブル・サイレンス」(2020)がある。

マーク・マンダース - Photo: Cedric Verhelst

1986年、自伝執筆の試みを契機に得た「建物としてのセルフ・ポートレイト」 という独自のコンセプトのもと、以降30年以上にわたって一貫した制作を続けている。

「建物としてのセルフ・ポートレイト」は、自身が架空の芸術家として名付けた「マーク・マンダース」という人物の自画像を「建物」の枠組みを用いて構築するというもの。その想像上の建物の部屋に置くための彫刻やオブジェを制作し、一連のインスタレーションとして展開することで、作品の配置全体によって人の像を構築し、スケールの大きいユニークな世界観を提示してきた。

マーク・マンダース《椅子の上の乾いた像》2011-15年 東京都現代美術館蔵 - Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp, Tanya Bonakdar Gallery, New York and Gallery Koyanagi, Tokyo

個々の作品は、過去の美術史や私的な記憶に基づくイメージ、彫像や言葉、家具などさまざまなオブジェの組み合わせからなり、見る者に複雑な感情や時間感覚、思索と内省の機会を与える。これらは独立した作品だが、作品はすべてこの架空の「建物」の一部をなすものとして現れ、作家であるマンダース本人と架空の芸術家マンダースの自画像とが混交しながら消失・生起し、見る者を虚実の空間へと誘う。

いっぽう、個々の作品には互換性があり、それぞれは単語のように部屋や構成に従って置き換わることが可能だという。それによって、この想像の「建物」全体は、いわば一つの自動的な装置のように不断に改変され、更新されていくことになる。

作品を見る者は、実際に作品を前にしながら、もういっぽうではこの想像の部屋の中にも居ることになる。マンダースの制作においてインスタレーションはその中心をなす仕事。本展は、2019年3月から作家本人が構想を温め、美術館の1フロア全体(1000m²)を使った展示を一つの作品=「建物」のインスタレ―ションとして構成する。

マーク・マンダース《未焼成の土の頭部》2011-14年 - Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp & Tanya Bonakdar Gallery, New York/Los Angeles Photo: Genevieve Hanson

展覧会タイトルにある「不在(Absence)」は、マンダースのインスタレーションに見られる時間が凍結したような感覚や静寂、すでに立ち去った人の痕跡、作家本人と架空の芸術家とのあいだで明滅する主体など、マンダース作品全体の鍵語として複数の意味を担う。また、「建物」が作家の不在においても作品として自律的に存在し続けるいわれでもある。

マーク・マンダース《舞台のアンドロイド(88%に縮小)》2002-14年 - Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp Photo: Peter Cox

風化したように見える今にも崩れそうな脆い質感や、それとは逆に今作られたばかりのような粘土の艶、複数のパーツの緊張感にみちた思いがけない配置と違和感のあるスケール。計算され、緻密に作られた作品からは、静謐さと不穏さの混交とともに、まるで、ある一つの瞬間ですべてが停止しているような、時間の流れを失ったような感覚が引き起こされる。「凍結した瞬間」と作家が呼ぶその世界は、いっぽうで朽ちることのない不変への憧憬をも呼び起こし、見る者に強い印象を残す。

マーク・マンダース《マインド・スタディ》2010-11年 ボンネファンテン美術館蔵 - Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp Photo: Peter Cox / Bonnefanten

本展には、近年のマンダースの重要な個展で必ず出品されてきた代表作が展示される。《夜の庭の光景》、《マインド・スタディ》は、それぞれベルギー、オランダの美術館から借用予定の作品で、本邦初公開となるマンダースの代表作。《マインド・スタディ》 は2011年のヴェネツィア・ビエンナーレに出品された。また、作家が「大好きな作品」だと語る、部屋のインスタレーションも展示される。

■展覧会概要
会期:2021年3月20日〜 6月20日
休館日:月曜日(5月3日は開館)、5月6日
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般 1500円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 1000円 / 中高生 600円 /小学生以下無料
会場:東京都現代美術館 企画展示室3F
ウェブサイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mark-manders/

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