ARB「魂こがして」石橋凌自身をそのまま歌にしたような入魂作! 1979年 12月20日 ARBのシングル「魂こがして」がリリースされた日

日テレの音楽番組「金曜娯楽館」の特集、新春奇想天外音楽大集合

高校時代、メンバー集めに苦労しながらもどうにか僕はバンドを結成した。

次に苦労したのが練習場所の確保だった。学校ではドラムはもちろん、アンプから音を出すことも許されなかったし、練習スタジオを借りるのもお金がない高校生にはそう簡単ではなかった。

でもじっとしていることもできず、放課後になるとバンド練習に貸してもらえそうな場所をチャリンコに乗って闇雲に探し回った。畑の真ん中にある小屋を見つけては「ここには電気が通ってるか?」「持ち主を探そう」なんてふざけながらも本気で探していた。

そんなことを続けていると思わぬ場所が見つかった。

僕の自宅のすぐ近くの「パンダ幼稚園」が土日の午後限定で貸してくれることになったのだ。しかもタダで。「幼稚園でやってもいいのかよ」と思いながらドラムとアンプをチャリンコに縛りつけて運び込み、毎週土日の午後はみっちり練習ができるようになったのだ。

パンダ幼稚園で練習を始めた日から遡ること数ヶ月、日本テレビの音楽番組『金曜娯楽館』(毎週金曜日22:00放送)でプラスチックス、P-MODEL、ヒカシュー、リザード、ARB、近田春夫&BEEFのライブが放送された。

その日は「新春奇想天外音楽大集合」と題され、出演バンドはみんな変わり者扱いされていた。司会の近田春夫に紹介されながらカメラを睨みつけておにぎりを食べるワカ(リザードのベース)を見たらそれも仕方がないか。

番組で初めて聴いた、ARB「魂こがして」

その番組で初めてARBの「魂こがして」を聴いた。歌う前から顔にびっしょり汗をかきながら、観客一人ひとりを確認するかのように歌う石橋凌の姿は未だに脳裏に焼き付いている。

こんな歌い方をする人を今までに見たことがなかった。瞬きをしない力強い眼差しに「俺はお前を見ているぞ」と言われているような気がして僕はテレビの前に釘づけになった。

ARBはファーストアルバム発売後、事務所と意見が対立して独立、メンバーの2人が脱退して残った3人(田中一郎・石橋凌・キース)でシングル「魂こがして / Tokyo Cityは風だらけ」をリリース。『金曜娯楽館』出演時はベースにサンジが入ったばかりの新生ARBのライブだった。

 ボクサーのように闇切り開け
 魂こがして

歌うは石橋凌、顔びっしょりの汗は戦いに挑むボクサーか…

この頃のARB自身をそのまま歌にした「魂こがして」。顔びっしょりの汗は戦いに挑むボクサーか。進退極まった状況なのにその先に見える光を信じているような石橋凌の歌と開放弦バリバリの田中一郎のギターに、たったの2分半で僕の魂に何かが飛び火した。

僕たちがバンドの練習場所を探し続けられたのも「魂こがして」の影響だと言ったら言い過ぎか。下手くそなバンド練習に教室を貸してくれたパンダ幼稚園にはいくら感謝してもし足りないし、練習を覗きに来た子供たちと遊んだのも忘れられない思い出になった。でもその数年後、残念な知らせが届いた。パンダ幼稚園が閉園するという。

 花火のように燃えちまったよ
 心こがして

週末になると「魂こがして」が聴こえてくる怪しい幼稚園には子供は通わせられない! … なんてことになったわけじゃないよな。

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※2017年6月20日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: やっすぅ

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