2021年度入試動向、新設大学は個性派公立大学に注目

毎年のように新しい大学や学部が設置されています。ここ数年は医療系学部・学科の設置が続いていますが、今年のキーワードもやはり看護やリハビリテーションなどの医療系です。それに加えてデータサイエンスも新たなトレンドとして加えることができるでしょう。さらに、専門職大学を含めて公立大学が3大学新設されることにも注目したいところです。

国立大学も含め、学部・学科を新設する動きが止まらない

ここ数年、大学の新設、学部・学科の新増設が続いています。既存の学部等の改組も含めるとかなりの数に上ります。こうした動きは国立大学にも見られ、特に理工系学部の改組・再編は難関大学でも行われています。河合塾の入試情報サイトKei-net(

https://www.keinet.ne.jp/

)には、2021年度の新設大学・新増設学部・学科に関する情報が整理されていますが、これを見ると国立大学でも、金沢大学 融合学域・先導学類、岐阜大学 社会システム経営学環など特色ある意欲的な新学部が予定されています。

ちなみに、金沢大学の学域は学部、学類は学科と考えれば良いでしょう。また、岐阜大学の学環も学部に相当します。このほか、国立大学では理工系学部の改組・再編が今年も見られ、九州大学工学部でも学科が6学科から12学科に再編されます。理工系学部の再編は私立大学でも近年、盛んに行われており、産業構造の変化と科学技術の進展に伴い、研究組織と教育組織は、共にトランスフォーメンーションしています。

2021年度に予定されている大学・学部・学科の新設一覧(河合塾の入試情報サイト)

https://www.keinet.ne.jp/exam/2021/pdf/21shinzo.pdf

看護、リハビリテーションなどの医療技術系に加えてデータサイエンス系も

今年の傾向として、前述のように理工学系の改組・再編以外では、看護、リハビリテーションなどの医療技術系の新設が目立ちます。この傾向は今年に限らず、ここ数年続いています。看護、理学療法、作業療法、診療放射線、臨床検査などの学科・専攻が年々増えており、志願者数も増えていることから、受験生の人気も一定程度、持続していると言えます。

こうした医療系以外では、今年一気に新増設が増えたのが、データサイエンス系の学部学科です。データサイエンス系の学部が日本で初めて設置されたのは、2017年に国立の滋賀大学に設置されたデータサイエンス学部です。新設当時は今ほど注目されていたわけではありませんが、年々存在感が高まり、今ではデータサイエンス系学部では老舗の風格を感じさせます。2021年度には新たに、岡山大、立正大、南山大、鈴鹿医療大、大阪工業大などでデータサイエンス系学部学科等の新設が予定されています。

ただ、こうした人気に水を指すようですが、データサイエンス系の学修内容は、理学部数学科や工学部情報系学科、経営工学系学科などでも学ぶことが可能です。さらに言えば、経営学部等でもマーケティング系の学科であれば学ぶことが可能で、むしろビジネス面では経営系学科の方が応用の効く有益な視点やスキルが身につくこともあります。受験生はデータサイエンスという名称に必要以上にとらわれることで進路選択の幅を狭めてしまわないように注意したいところです。

→次ページ個性のある公立大学、公立専門職大学が新設される

個性のある公立大学、公立専門職大学が新設される

大学の新設も続いています。公立大学では三条市立大<新潟県>、叡啓(えいけい)大<広島県>の設置が、私立大学では松本看護大<長野県>の設置が予定されています。また、新設ではありませんが、大阪医科大と大阪薬科大が統合され、新たに大阪医科薬科大が誕生します。専門職大学では芸術文化観光専門職大学<兵庫県>が設置され、私立専門職大も、かなざわ食マネジメント専門職大<石川県>、名古屋国際工科専門職大<愛知県>、大阪国際工科専門職大<大阪府>、和歌山リハビリテーション専門職大<和歌山県>の4大学が設置予定です。

これらの中でも公立大学は地域の期待を背負って設置されるため、個性と特色が目立ちます。三条市立大が設置される三条市には、金属加工などで高い技術を持つ企業が集まる燕三条地区があり、設置される学部学科は「工学部 技術・経営工学科」です。高い技術の習得に加えて、マネジメント能力の育成も目的としています。また、叡啓大にはソーシャルシステムデザイン学部ソーシャルシステムデザイン学科が設置されます。叡啓大の設立母体は、県立広島大ですが、新学部を増設するのではなく、新しい大学をわざわざ設立することに並々ならぬ意欲を感じます。

さらに注目は、芸術文化観光専門職大学です。大学が設置される場所は兵庫県豊岡市で、学長予定者は劇作家の平田オリザ氏です。設置される学部学科は芸術文化・観光学部芸術文化・観光学科で、芸術分野と観光分野の両分野がカリキュラムの両輪となっています。すでに平田オリザ氏が主宰する劇団の拠点となる新しい劇場も、クラウドファンディングを含めた多くの支援によって豊岡市に完成しています。

このように演劇を本格的に学べる公立大学というのは極めて個性的です。さらに演劇の手法を用いて、コミュニケーション力を高める必修科目も予定されています。こうした教育方法は、平田氏が全国の小中高から高等教育の場ですでに実践済です。なお、本来なら大学入学共通テストが必須受験である公立大学ですが、開設初年度は大学入学共通テストが課されません。これは初年度だけの特典とも言えます。

オンライン留学先は、リトアニア、エルサレム、マレーシア・ボルネオ、インド

前述の公立大学以外でも、武蔵野大のアントレプレナーシップ学部アントレプレナーシップ学科や神田外語大のグローバル・リベラルアーツ学部グローバル・リベラルアーツ学科も興味深い存在です。中でも神田外語大のグローバル・リベラルアーツ学部は、1年次に海外スタディ・ツアーを必須にしており、行き先はリトアニア、エルサレム、マレーシア・ボルネオ、インドというかなり特色のある場所となっています。学生は当初この4カ所から1カ所を選択することになっていましたが、現在、渡航できない状態のため、オンライン留学が予定されています。ただし、オンライン留学となったことで、全員がこの4カ所を体験することになり、通常では得られないような貴重な学びが可能となりそうです。それぞれの場所には重要な意味があり、リトアニアは「人道」、エルサレムは「宗教」、マレーシア・ボルネオは「サスティナビリティ」、インドは「多文化共生」です。今後、渡航制限などがどのようになるかは不明確ですが、通常であれば3年次には全員がニューヨーク州立大学に長期留学することとなっています。グローバル系の学部学科の新設数はやや落ち着きつつありますが、それだけ学部数が増えたと言うことです。それだけに大学選択では、どのような個性を持った教育プログラムなのかということが大切な視点となるでしょう。

新設される大学、学部学科の総合型選抜や学校推薦型選抜はすでに始まっていますが、一般選抜はまだこれからです。新しい大学や学部などの個性に何かを感じたら、新しい選択肢として情報を深掘りしてみることも良いでしょう。

投稿 2021年度入試動向、新設大学は個性派公立大学に注目大学ジャーナルオンライン に最初に表示されました。

© 大学ジャーナルオンライン