最も脆弱な人は自社のサプライチェーンに:国連ビジネスと人権フォーラム1日目

第9回国連ビジネスと人権フォーラムが11月16−18日に開催された。来年の「ビジネスと人権に関する国連指導原則」の10周年に向けた準備と、「よりよい復興(Build Back Better)」という大きな目標の実現を目指すものだ。(翻訳=梅原洋陽)

フォーラムは、新型コロナイルスがどのようにビジネスや人権を後退させたかについての厳しい評価で幕を開けた。

国連人権高等弁務官のミチェル・バチェレ氏は新型コロナウイルスへの対応策が人権や反対意見を抑え込むために使われていると述べた。サプライチェーンが最も影響を受け、特に女性労働者が不釣り合いなレベルで影響を受けている、と指摘した。

ユニセフのサンジェイ・ウィジェセケラ氏は、数十年間にわたる児童労働や児童婚といった問題の進展が失われたと伝えた。同氏は他の多くのスピーカーと共に、政府に対し、財政の力でビジネスや人権を尊重するよう強く求めた。

政府は、企業や雇用を維持する際に、期限を定めた環境や人権のデューデリジェンスを実施する行動計画を条件づけるべきだと、ビジネス・人権資料センターの事務局長フィル・ブルーマー氏はフォーラムで語った。

パンデミックから学ぶというセッションでは、半導体メーカーNXPのCSRディレクターであるトニー・カオ氏は移民労働者をどのように支援しているかを説明した。移民労働者は同企業が展開する26カ国の中で最も弱い立場にあることが多く、移動制限により母国に帰ることができない。また、コカ・コーラでユーラシア・北アメリカの人権部門ディレクターのシュヴァ・セカール氏は同社の危機管理部門内で人権の専門家がどのように活躍しているかを紹介した。

2社ともデューデリジェンスの恩恵は大きいと感じていることを語った。デューデリジェンスを実施するというのは、サプライヤーとの良好な関係をすでに築いているということ。今回のような危機が起きた時にも恩恵は多くあるようだ。中小企業の事業や雇用を守りながら、供給の安全性も確保できた。

インパクト投資を行うドミニでエンゲージメント・ディレクターを務めるコーリー・クレマー氏は、投資家たちも人権を尊重してきた企業ほどレジリエンスがあることに気がついた、と語る。人権の尊重は良い時代にも悪い時代にもビジネス界で重要であることは間違いない。

しかし、2つ目のテーマとして取り上げられたのは、国連グローバル・コンパクトの事務局長であるサンダ・オジャンボ氏が「分断の広がり」と呼ぶものだ。企業の人権政策の導入と実際の遂行の隔たりだ。

リーダーシップが問われている

第4回のCHRB(Corporate Human Rights Benchmark:企業人権ベンチマーク)がフォーラムで発表された。人権の尊重を表明する企業が増加したことは昨年から最大の進歩だが、ほとんどの企業は改善状況を年度内に報告しなかった。また、230社のうちの79社は人権デューデリジェンスのスコアがゼロのままだった。

初日を締めくくるCEOによるパネルセッションでは、この問題をリーダーシップの責任だとした。

「リーディングカンパニーは、CEOが指導原則を簡単に語り、企業の人権宣言を設定するだけにとどまってはいけないのです。従業員、投資家、ステークホルダーや、消費者は気付いています」(国連ビジネスと人権作業部会委員長 アニタ・ラマサストリ氏)

そして、業界を超えて社会的課題のために連携することが、企業の競争力に悪影響を与えると思っている人もいるだろう。しかし、ペプシコのSVP兼主任顧問のマイケル・サッチャー氏の発言がその答えだ。「アトランタにあるコカ・コーラの本社で私たちは人権について話し合っています」。

CHRBのもう一つの重要な発見は、自動車業界に関してだった。気候変動で良い取り組みをしている企業と、人権に関して良い取り組みをしている企業に相関性はなかったのだ。この業界では、この二つの問題は別々に捉えられているようだ。Climate Justice(気候正義)という用語は存在していないかのように思える。

この2つを結びつける事例を行ったのは、アイルランドの前大統領メアリー・ロビンソン氏だ。このフォーラムで、ローカルレベルで、企業は人権保護団体と直接連携し「環境、発展、そして人権の関係性を理解する」ことを求めた。

WBCSD(World Business Council on Sustainable Development: 持続可能な開発に関する世界経済人会議)のフィリッポ・べグリオ氏が良い連携の例を紹介した。WBCSDでは人権に関するコミットメントを、メンバーに加わる必要条件として設定し直したようだ。

この日の大きな2つのテーマをまとめるとどのようになるだろうか。新型コロナウイルスでも気候変動に関してでも、企業は、サプライ・チェーンにいる立場の弱い人を助けるために措置を講じ、その人たちのニーズを企業が遂げていく変革のプロセスの中に組み込むことだろう。

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