諫干問題 漁業者にやるせなさ 営農者らは国の方針支持

野上農相に養殖ノリの不漁を訴える篠塚さん(中央)=佐賀市内

 国営諫早湾干拓事業の開門調査を巡り、20日に野上浩太郎農相と面会した開門派漁業者らは、開門も有明海再生も実現しない現状にやるせなさを募らせた。一方、干拓地の営農者らは、開門による農業被害や防災効果の後退を懸念し、国の「非開門」方針を支持。国と開門派漁業者の主張は平行線のまま、21日、開門を命じた福岡高裁の判決確定から10年を迎える。
 「いつものセレモニー」。開門確定判決の原告、篠塚光信さん(62)=島原市=は、佐賀市内で農相に今季の養殖ノリの不漁を説明した後、面会の会場を出てからあきれたようにつぶやいた。農相が代わるたび島原から駆け付けるが、思うような進展はない。
 2010年12月6日、福岡高裁は同事業と漁業被害の因果関係を一部認め、3年猶予後、5年間の開門調査を命じた。旧民主党政権が上告せず、同21日に確定。自民党の政権復帰を経て、13年12月20日の判決履行期限を過ぎても開門調査は実現していない。
 それどころか、国は14年、開門確定判決の「無効化」を漁業者に求める請求異議訴訟を提起。漁業者の目には「背信行為」に映った。同訴訟は二転三転の末、最高裁が昨年9月、国勝訴の二審判決を取り消し、同高裁に差し戻した。この間、国は17年4月、「開門せずに100億円基金による和解」方針を明示。昨年6月には最高裁が初の「非開門」判断を示した。
 開門確定判決から10年。当時、58人だった原告のうち、6人が死亡、7人が離脱した。篠塚さんは「今年、仲間が逝った。確定判決を守らないのならば、国の威信はない」と背信を重ねる国に憤る。
 20日午前、諫早市の中央干拓地。営農者の町田浩徳さん(57)=雲仙市千々石町=は農相らを前に、順調な営農状況を説明。「開門したら塩害で作物が育たなくなると思い、一時は撤退も考えた。でも、今は、従業員の雇用を安定させ、安心して農業ができる」。“開門の恐怖”から解放されつつある状況にほっとした表情を浮かべた。
 養殖カキのブランド化を進める諫早湾漁協の新宮隆喜組合長(78)は「漁場改善の事業が始められていたのに何もできず、10年間を無駄にした」と述べ、訴訟の早期解決と有明海再生を訴えた。

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