平和と公正をすべての人に【SDGsって? 知ろう話そう世界の未来】16

国家レベルでは戦争や紛争、家庭レベルではDVや虐待と、さまざまな暴力が世界中で起こっている。SDGs(持続可能な開発目標)の目標16「平和と公正をすべての人に」は、世界中の人たちが平和に暮らせるように暴力の撲滅、法の支配と司法へのアクセスなどを目標に掲げる。
沖縄戦から75年が過ぎ、その記憶の継承も課題だ。体験者から伝えられた証言を受け止め、地図作りやガマ体験と合わせて次世代に伝えようとする大学生らが活動している。DVやハラスメントなど身近な暴力に気付き、止めるための活動を続けるNPOの活動など、それぞれを紹介する。
非体験世代間の沖縄戦継承ぎのわんピースブリッジ
 戦後75年。沖縄戦の体験者が減少する中、非体験世代の、悲惨な戦争の記憶や平和への思いの継承の在り方が注目を集めている。こうした中、県内の大学生が主体となって、さらに若い世代の中学生に戦争体験継承の場を提供する動きが始まっている。
 沖縄国際大学4年の石川勇人さん(22)ら県内の大学生が中心となって今年4月、宜野湾市の嘉数区自治会(伊波稔会長)と協力して「ぎのわんピースブリッジ」を立ち上げた。県内の大学生ら5人が参加した。これまで宜野湾市立嘉数中学校の生徒に、沖縄戦を追体験する場を提供してきた。
 嘉数は沖縄戦の激戦地で、住民の多くが命を奪われた。トーチカなど戦跡が多く残る嘉数高台公園には、県外からの修学旅行生も訪れる。
 石川さんによると、宮城勲さんら戦争体験者が嘉数地域の語り部として活動している。一方で嘉数に住む子どもたちが地域について学び、戦争体験の継承につながる場が今まで少なかったという。
 「宮城さんらの戦争の記憶、平和への思いを次世代に伝えたい。特に地元の子どもたちには、地域住民が経験した戦争を語り継いでほしい」。石川さんらはこうした思いから団体を設立した。
 10月末、中学生と大学生が一緒に、戦前の集落の様子や住民の戦時中の避難経路などを地図に落とし込む取り組みをした。11月末には中学生が宮城さんらと共に、住民約400人が避難したといわれる浦添市牧港のチヂフチャーガマに入り、沖縄戦を追体験する企画も実施した。
 石川さんは「子どもたちが将来、語り部となって、さらに次の世代に沖縄戦を継承してほしい。この取り組みがその足がかりになるはずだ。持続的な戦争体験の継承を実現させたい」と意気込んだ。
(長嶺晃太朗)

企業で「暴力」学ぶ機会をがじゅまる沖縄
 更生保護法人がじゅまる沖縄(仲本晴男理事長)は、2007年度からドメスティックバイオレンス(DV)加害者更生相談室を設置し、更生のためのプログラムを実施している。また、子どもたちに向けてデートDVの予防啓発講座も開いている。
 がじゅまる沖縄の名嘉ちえり研究員は「子どもへの講演に一定の効果があっても、一部の子どもは家庭内に暴力があり、大人に裏切られ不信感を持っている。大人が変わらなければならない」と指摘し、企業でDVや暴力問題について学ぶ場を設けることの重要性を語った。
 がじゅまる沖縄に寄せられたDVの相談では、被害者と加害者のどちらも30~40代の世代が大半を占める。名嘉さんは「例えば勤め先にDVの被害者、もしくは加害者がいたら、企業は自ら被る損失を考えたことがあるだろうか」と問い掛けた。
 当事者が突然出勤しなくなったり、通院や裁判所からの呼び出しなど公的機関からの求めで休んだりすることもある。その分、企業の業務が回らなくなる。
 当事者が退社する事態になれば、これまでの人材育成への投資は水の泡となり、ニュースなどで知れ渡れば会社のイメージにも悪影響が予想されると、名嘉さんは指摘する。「暴力を生まないよう社員教育を徹底するだけでも従業員の安心した生活基盤につながり、広い意味で企業にもメリットとして還元される」
 企業が取り組める事例として、名嘉さんは毎日3分、DVに関する話題を社員間で共有することなどを提唱した。社内で声を掛けられてうれしかったり、傷付いたりした言葉を伝え合い、互いの気持ちへの理解を深めることで、非暴力的な行動に結び付けられるとした。
 名嘉さんは「身近な人の多様性を認め、非暴力的な態度を心掛けることが暴力の予防につながる。暴力をなくすことはSDGsの各目標達成の基盤にもなる。平和を紡いでいくことが大切だ」と思いを込めた。
(関口琴乃)

児童虐待、相談最多
 県内の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は、2019年度は1607件で、18年度から46.1%増となる507件増えた(厚労省速報値)。全国的にも19万件を超して過去最多。虐待への関心の高まりや、子どもの前で行われた「面前DV」が子どもへの心理的虐待に位置付けられたことで通報や相談が増えたと分析されている。
 一方、子どもへの虐待は世帯の経済的な厳しさや孤立もリスク要因とされる。コロナ禍の中、休校や収入減少で「子どもにイライラする」「手を上げてしまった」などの声は琉球新報にも寄せられた。暴力防止には、貧困の解消や親の経済力など、SDGsの他の目標と関連した社会の変革も重要だ。

SDGsとは…
さまざまな課題、みんなの力で解決すること 気候変動、貧困に不平等。「このままでは地球が危ない」という危機感から、世界が直面しているさまざまな課題を、世界中のみんなの力で解決していこうと2015年、国連で持続可能な開発目標(SDGs)が決められた。世界中が2030年の目標達成へ取り組んでいく。
 「持続可能な開発」とは、資源を使い尽くしたり環境を破壊したりせず、今の生活をよりよい状態にしていくこと。他者を思いやり、環境を大切にする取り組みだ。たくさんある課題を「貧困」「教育」「安全な水」など17に整理し、それぞれ目標を立てている。
 大切なテーマは「誰一人取り残さない」。誰かを無視したり犠牲にしたりすることなく、どの国・地域の人も、子どももお年寄りも、どんな性の人も、全ての人が大切にされるよう世界を変革しようとしている。
 やるのは新しいことだけではない。例えば物を大切に長く使うこと。話し合って地域のことを決めること。これまでも大切にしてきたことがたくさんある。視線を未来に向け、日常を見直すことがSDGs達成への第一歩になる。

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