『ティダピルマ』 日常を神秘的に描く

 詩はいわゆる詩(外形的な)だけのものではない。詩は言葉のみの世界ではない。永遠無限的な考え方とその発見にある。全ての芸術が詩を目指す。

 なぜいきなり詩の話かというと、この作品集の表題ともなっている「ティダピルマ」の世界が、詩の玄妙な美を深い天からの流星のように、地上の私に眩(まばゆ)く届いたからである。この作品で、もりおみずきは詩人だ。

 『ティダピルマ』には6作品(3作は受賞作)が収録されている。そのどれもがファンタジーではない。絵空事ではない。もりおは、子どもを空想の世界の住人として押しやらない。大人と同時代の実存者として引き受ける。戦後の米軍。認知症介護。開発と環境破壊。東日本大震災。かような時代にあっては、人間はその接触障害にあえいで生きていくしかない。6作品はどれもその接触点から出発している。

 しかし、もりおには社会派作家的発想はないと思う。時代の底にいる弱き者に心を通わせる。高齢者には永く生き抜いてきたことへの尊厳を、低年齢者には先人として守り育てていかねばならない義務と愛を、随所からにじませている。

 集中、「ティダピルマ」は圧巻である。キーワードは〈島を切り裂くキズ〉と〈土地の力〉。前者が後者へと、いくつもの伏線を明らかにしていく構成には舌を巻く。けん引するのは、今は「タマスを落としている」オジイと孫のワタル。付された7つの小見出しは、トルソのようにバラバラに置かれた現実のかけら。それらがもりおの筆によって合体されると、泣きたくなるほどの美しくも畏敬な世界が顕現する。

 これをビジュアルにすべく、「タマスツリー」と「ティダピルマ」という新しい造語で土地深くからすくい上げて見せる。沖縄の民が知っている日常を、神秘的に昇華した言葉だ。見事に詩だと感じる。私はこれを〈トルソの手法〉と名付けたい。

 書き始めの頃、もりおは『夢の鈴』を結成。50歳と11歳2人の童話クラブで、小さな同人たちと作品を読み合ったという。なんてすてきなエピソードだろう。(市原千佳子・詩人)

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 もりお・みずき 本名・友利昭子(ともり・しょうこ)。1945年生まれ。聖心女子大学国語国文学科卒。日本児童文学者協会会員。「恵子美術館」顧問。琉球新報児童文学賞選考委員。

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