<南風>変化する力

 2020年も残すところわずか。まだ書き上げていない年賀状を横目に見つつ、今年1年を思い返している。7月にスタートしたこのコラムもこれがラスト。原稿用紙2枚ほどに、言葉を埋めていく作業は新鮮な体験だった。頭の中に浮かぶ思いや考え、ノートの端に殴り書きしたフレーズ、出会った人や体験したこと、私の中を通過するさまざまな事柄を言葉として紡ぎ、その輪郭をかたち取る作業は難しくもあり、興味深いものであった。

 「解像度」という言葉を思い出す。同じものを見ていても、自分の置かれた状況で見えるものは異なるものである。中学生の頃、初めてコンタクトレンズをつけた時のことは今でも忘れられない。メガネのように何かを通して見えているのではなく、あたかも自分の目そのもので見えている感覚、これまでぼんやりとしていた景色がくっきりと見え、輪郭だけでなく、彩りまでもが鮮やかに映った瞬間は感動だった。今回、コラムを書くこともこれに似た「解像度があがる」感覚だったと感じる。

 文章を書きながらめぐる思考が整理され、自分自身こんな風に感じていたのか、考えていたのかと改めて気付き、驚かされることもあった。当たり前の日常の中でふと気づいたこと、出合った言葉を改めて見つめ直していく中で、何枚ものコンタクトレンズが装着され、新たな景色が浮かび上がるようであった。

 新しい年にあたり、新たな目標を掲げ、未来の自分に期待することがある。しかし、未来は必ずしも何か新しいチャレンジが必要なわけではない。昨日から続く今日、そして今に集中し、アウトプットし、自分を俯瞰(ふかん)することで世の中の彩りを感じる感性が磨かれ、世界を広げ、深めていくこともできる。変化する力は今の私と対面することでもかなうかもしれない。

(山口茜、沖縄美ら島財団 首里城公園業務課長)

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