ハム中田の108打点と鷹周東の50盗塁はどれだけ凄い? 143試合換算でわかる“傑出度”

日本ハム・中田翔(左)とソフトバンク・周東佑京【写真:石川加奈子、藤浦一都】

自身3度目となる打点王に輝いた中田、本塁打も31発マーク

2020年のプロ野球は、新型コロナ感染拡大の影響で開幕が3か月延期され、従来の143試合制ではなく、120試合に短縮された。試合数減の影響は、各選手の成績にも波及。本塁打、打点、安打、盗塁などの積み上げ式の記録では、昨季までと同等の数字を残すことは難しい状況だった。

そんな中、日本ハムの中田翔内野手は、108打点を稼いで自身3度目の打点王に輝き、本塁打数もリーグトップまであと1本に迫る自己最多の31本を記録。チームの主砲として活躍を続けてきた中田にとっても、今季はキャリアハイに近いシーズンのひとつだったと言えるだろう。

また、ソフトバンクの周東佑京内野手は50盗塁を記録し、自身初の盗塁王のタイトルを獲得。出場試合数が103試合だったことを考えると、およそ2試合に1度の割合で盗塁を決めていたことになる。例年と同じ143試合であれば、盗塁数はより伸びていたことは想像に難くない。

そこで今回は、この2選手が今季残した数字を143試合に換算すると、成績はどの水準に達するのかを紹介していきたい。さらに過去のパ・リーグにおけるタイトルホルダーたちとも比較。今季の中田と周東が残した数字の傑出度について探る。

まず、中田がこれまでのキャリアで記録してきた成績について紹介したい。

今季の31本塁打は、これまでのキャリアハイだった2015年の30本塁打を上回った。犠飛の数も、NPB史上2番目の多さとなるシーズン13犠飛を記録した2018年に次ぐ数字に。打率こそ.239と前年を下回ったものの、OPSも2015年以来5年ぶりに.800台に乗せており、打率から来る印象以上に、さまざまな面で充実したシーズンだったと言えそうだ。

日本ハム・中田翔の打撃成績【画像:(C)PLM】

パ・リーグでの直近10年間、2018年に浅村が記録した127打点が最多

では、2020年の成績を143試合に換算したらどうなるのか。

本塁打数は37本まで伸び、打点数も2016年に記録した自己最多の110打点を大幅に上回る計算に。犠飛の数も11と2桁に乗る計算であり、これは歴代7位タイに相当する。四球もキャリア最多となるペースで選んでいたことも見逃せず、今季の中田は過去のシーズンと比べても、かなりのハイペースで数字を積み上げていたと考えてよさそうだ。

ここからは、今季の中田が積み上げた打点のペースを、過去の例と照らし合わせて評価していきたい。まず、直近10年間のパ・リーグにおける打点王獲得者と、その打点数は以下の通りだ。

直近10年のパ・リーグ打点王【画像:(C)PLM】

ここ10年間においては、2018年に浅村が記録した127打点が最多。すなわち、今季の中田の129打点ペースを超える選手は、近年のパ・リーグには存在しなかったということだ。こういった過去の傾向は、今季の中田が残した数字が、108打点という見た目上の数字以上に優れていたということの証左にもなるだろう。

直近10年間というスパンに囚われずに評価すると、129打点という数字がどれほどの価値があるのかについて迫っていきたい。2リーグ制導入以降のパ・リーグで、シーズン129打点以上を記録して打点王を獲得した選手たちの顔ぶれと、その打点数は下記の通りだ。

シーズン129打点以上のパ・リーグ打点王【画像:(C)PLM】

70年にわたるパ・リーグの長い歴史の中でも、129打点以上の数字を記録して打点王のタイトルを獲得したのはわずかに6人。2001年の中村紀洋氏を最後に20年間も空白が続いていることを考えても、今季の中田の打点ペースは、まさに歴史的なものだったと言えそうだ。

6人の選手たちの顔ぶれを見ると、3冠王の獲得経験がある野村克也氏、ブーマー氏、落合博満氏に加え、本塁打王と打点王をそれぞれ2度獲得し、史上初の両リーグ1000安打を達成した大杉勝男氏、1979年から2年連続で本塁打王に輝いたマニエル氏、2000年に本塁打と打点の2冠に輝き、2001年に2年続けて打点王を獲得した中村紀洋氏と、そうそうたる大打者たちが揃っている。

中田も3度の打点王に加えて、内野と外野で計2度ずつベストナインを獲得。一塁手としてゴールデングラブ賞も3度獲得している。広い札幌ドームを本拠地としながら、通算250本を超える本塁打も記録してきた。31歳とまだまだこれからという年齢であり、今後も長距離砲として活躍を続け、偉大な大打者たちの領域にさらに近づいていく可能性も大いにあることだろう。

ソフトバンク・周東佑京の打撃成績【画像:(C)PLM】

143試合だったら周東の盗塁数は大台の60に到達する計算

一方、周東の成績も見ていきたい。昨季は俊足やユーティリティ性を活かしたスーパーサブとしての出場がメインで、試合数と打数は全く同じ。代走としての出場が主ながら25盗塁を稼ぎ、侍ジャパンにも選出された機動力は卓越しているが、打率は1割台とバッティングの面では苦戦を強いられ、レギュラーの座に迫るには至らなかった。

しかし、今季は課題だった打撃面が大きく改善され、スタメン出場の機会が飛躍的に増加。9月からはトップバッターを務める試合が大半となり、出塁率.325とリードオフマンとしての適性を示した。出塁数の増加に伴って盗塁数も伸び、ちょうど前年から倍となる長足の進歩を遂げた。13試合連続盗塁というプロ野球記録も打ち立て、自身初タイトルを手に入れた。

今季の周東の成績を143試合に換算してみると、安打数は99で、あと1本で3桁というペースであった。盗塁数もちょうど10個増加し、60の大台に乗る計算に。一見すると2019年とさほど変わらないように見えた出場試合数も、143試合換算であれば123試合という数字となり、レギュラー1年目としては十二分に優れた成績を残していたことが見えてくる。

周東の今季の盗塁のペースを評価するにあたり、直近10年間のパ・リーグ盗塁王と、その盗塁数についても紹介していきたい。

直近10年のパ・リーグ盗塁王【画像:(C)PLM】

過去10年間のパ・リーグにおいて60盗塁の大台に到達したのは、2011年の本多氏だけ。盗塁王獲得者の顔ぶれを見てもわかる通り、近年のパ・リーグは数多くの快速ランナーがしのぎを削ってきた。その中でもトップクラスのペースで盗塁を積み重ねた今季の周東は、近年のリーグ内においても、とりわけ傑出した存在のひとりであると言えそうだ。

シーズン60盗塁という数字は容易に到達できる数字ではない。2リーグ制導入以降のパ・リーグにおいて、60盗塁以上を記録して盗塁王に輝いた選手たちの顔ぶれは、上記の通りとなっている。

シーズン60盗塁以上のパ・リーグ盗塁王【画像:(C)PLM】

シーズン60盗塁という数字は容易に到達できる数字ではない。2リーグ制導入以降のパ・リーグにおいて、60盗塁以上を記録して盗塁王に輝いた選手たちの顔ぶれは、下記の通りとなっている。

1980年代以降は60盗塁以上をマークする選手は減少

1970年から13年連続で盗塁王に輝き、そのうち最初の10年は全て60盗塁以上を記録するという離れ業を見せた「世界の盗塁王」こと福本豊氏をはじめ、1970年代まではシーズン60盗塁以上を記録した盗塁王の数は少なくなかった。しかし、1980年代以降は10年周期で1人ずつと、その割合は大きく減少している。試合数自体は2000年代に入ってからむしろ140試合以上に増加していたこともあり、盗塁の難易度そのものが上昇していると言えそうだ。

野球を取り巻くデータの細分化、およびフィードバックの速度や質の向上に伴い、捕手のスローイング精度や、投手のクイック技術も進歩している。その影響で、時代を経るごとに盗塁という行為へのハードルが上がっている面はあるだろう。そんな中で、本多雄一氏以来10年ぶりに、シーズン60盗塁の大台に乗るペースを維持した周東の脚力と技術。過去のケースに照らし合わせてみても、やはり希少な存在のひとりと言えそうだ。

今季記録された中田の打点と周東の盗塁は、いずれも近年のパ・リーグにおいては抜きん出たペースで積み上げられたものだった。それだけに、120試合にシーズンが短縮されたことで、単純な数字の面ではそのペースに比してやや少ない数字となってしまったのが惜しまれるところだ。だからといって、今季の両選手が見せた出色の活躍ぶりが、色あせるようなことも決してないであろう。

ファイターズの主砲と、ホークスの切り込み隊長。チームの屋台骨を担う両選手は、来季以降もチームをけん引するような活躍を見せてくれるだろうか。今後のプレーぶりと、それに付随する数字にも、大いに注目していく価値はありそうだ。(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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