次亜塩素酸水の活用で医療崩壊を防げ|奈良林直 我が国の感染防止対策は「3密」の回避とマスク着用、手指の消毒にとどまっている。現在の新型コロナ対策に欠落しているのは、サイエンス、つまり理学と工学を駆使する政策である。

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。このため、政府が経済対策の目玉としたGoToトラベルも一時停止に追い込まれ、各種世論調査で菅政権の支持率は10ポイント以上も低下した。政権の危機になりかねない。しかし、我が国の感染防止対策は「3密」の回避とマスク着用、手指の消毒にとどまっている。現在の新型コロナ対策に欠落しているのは、サイエンス、つまり理学と工学を駆使する政策である。

予防保全の重要性

筆者の専門は「保全学」である。感染症の予防保全は感染防止に力を入れること、事後保全が感染者に医療を提供することである。予防保全の考え方は全国に、そして全世界に普遍的な効果をもたらす。本欄で3度目の提案であるが、今こそ次亜塩素酸水や紫外線、光触媒などウイルスを効果的に殺菌できる理学と工学の手法を総動員すべきだ。それが我が国の経済力の復活につながり、医療機関への過度の負担を大幅に軽減する。

次亜塩素酸水の使用は今から150年前に遡る。ウイーン総合病院の二つの産科病棟間で産褥熱の発生率に差があった。医師の手の汚れが原因であることが指摘され、手洗いと塩素水消毒が励行されたのが1847年。産褥熱の発生が激減したのは消毒法の先駆者であるゼンメルワイス・イグナーツの功績である。まだウイルスが発見されていない時代である。

次亜塩素酸は、血液中の白血球(好中球)が体内に侵入したウイルスや細菌を殺すのに使う物質である。人体に無害である。しかし、我が国の薬機法(旧薬事法)では、次亜塩素酸水で手指の消毒を行うことを認めていない。日本環境感染学会という感染制御専門の学会の副理事長である松本哲也医師は、製品評価技術基盤機構(NITE)の委員長として、次亜塩素酸水を手指の消毒に使ってはいけないとテレビで盛んに主張し、同学会もホームページでそう解説している。しかし、同学会の理事が所属する病院では20人以上のクラスター(集団感染)を発生させているところが複数ある。感染制御ができていない。

米中では次亜塩素酸水の使用を奨励

5月29日のNITEの「効果が確認されていない」という発表で、全国一斉に次亜塩素酸水の噴霧器が撤去された。その後、我が国の新型コロナウイルス感染者はじわじわと増え続け、空気が乾燥した年末に至って、病床が逼迫するほどの増加を見せている。

米国では、環境保護庁(EPA)が次亜塩素酸水をコロナ対策推奨消毒剤として登録し、歯科や口腔外科でも手術後の消毒に使用している。米国船級協会(ABS)も船舶の次亜塩素酸水による消毒を奨励している。

中国でも国家衛生健康委員会が、室内空気の消毒、手・皮膚・粘膜の消毒などに次亜塩素酸水が向いていると使用指針に明記している。2017年出版の「医院消毒技術規範」には、次亜塩素酸水は手術器具や傷口にも使用され、空間除菌では濃度100ppmのものを噴霧していると記載されている。

政治が理学と工学の力を活用して初めて科学技術立国となり、感染防止と経済活動復活の両立が可能となるのだ。( 2020.12.21 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

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