楽天フロントへノムさん渾身の三くだり半! 45年ぶりに飛び出した〝伝説の決めセリフ〟

スタンドの声援に向けて「クビや!」のジェスチャーを送るノムさん

【球界平成裏面史・楽天09年編(5)】球団創設5年目、平成21年(2009年)の楽天は野村克也監督のもとで初のAクラス入りを決め、初進出のクライマックスシリーズ(CS)に向けてユニホーム組は盛り上がっていた。

一方で次期監督候補の名前が次々と浮上。筆頭候補とされていた元西武監督の東尾修氏が白紙になったと思ったら、今度は広島監督マーティー・ブラウンの名前が世に出た。

そんな中、10月に入って楽天グループの総帥・三木谷浩史会長が阪神のシニアディレクター(SD)だった星野仙一氏と「料亭極秘会談」を行っていたことが写真週刊誌の報道により発覚する。記事中では球団関係者の弁として「監督要請をした」とも報じられた。

米田純球団代表は「野球とは関係ない話だったと聞いている。次期監督? ないでしょう」と全面否定したが、次々と自分の知らないところで次期監督候補が取り沙汰される展開に、ノムさんはアキレ顔で「星野は政治家向きだよ。弁が立つからな。でも楽天と阪神は全然違う。阪神は潜在能力があるのにできない選手が多かったが、楽天の選手は潜在能力が低いからな。しかも星野は精神野球。『気合だ! 根性だ!』だから」と忠告までする達観ぶりだった。

実はかねて三木谷会長は星野氏と親交があり、球団経営やチームのあり方など何かと相談を持ちかける間柄ではあった。球団関係者も「基本的に今回に限っては『懇親会、情報交換』だよ」と否定的だったが、別の関係者によると「星野監督」を検討していた時期はあったといい、こう付け加えていた。

「シーズン中ですが、球団首脳の間で星野氏擁立の費用として『2億円は出せる』と試算していましたし、両者の間で次期監督に関する、何らかのやり取りもあった」

そのための〝スジ〟を通すべく、三木谷会長が阪神・坂井オーナーとも会談を持っていたとの情報も流れていた。

そんなお家騒動をよそに、2位に浮上したチームの勢いはさらに増していた。10月9日のオリックス戦(Kスタ宮城)に4―3で勝利し2位が確定。すでに仙台の夜は寒くなっていたが、スタンドに詰めかけた1万9419人の観衆は大いに盛り上がり、試合後にはノムさんがテレビカメラの放列に向かって開口一番「仙台は熱いぞ!」。続けて「これだけお客さんが集まるとは思わなかった。本当に勝ててよかった。4年間、非常に温かくて熱心な声援を送ってもらったんでね…。日本シリーズまで行ければ。そういうことでしか恩返しができない。残り試合頑張りますよ」と、しみじみ語った。

至福の時をファンとともに喜びたい。しかし、口にしなければ収まりのつかない感情もあったのだろう。ノムさんはこうも言った。

「裏ではこそこそ次の監督の動きがあるみたいだけど、こんな大事な時期にケッタクソ悪い。何考えてんだ。大事なシリーズを迎えようかという最中に…頭にくるな、ほんとっ! 楽天イーグルスは好きだけど、楽天球団は大嫌い!」

会心の毒ガスは45年ぶりに吐き出した決めセリフでもあった。9月11日のソフトバンク戦の試合前、ノムさんはふと思い出したように南海での現役時代の話をしていた。「南海と契約でモメたときに、俺が言った名言があるんだ。しばらく巷で話題になったんだけど。(今の自分の心境に)あてはまるんだよ」と前置きし、半世紀前の歴史の扉を開いた。

南海が2度目の日本一に輝いた昭和39年(1964年)、ノムさんは本塁打と打点の二冠を獲得したが、オフの契約更改では25%ダウン。「俺、めったに契約更改で拒否しないんだよ。でも、そのときは頭にきた。『失礼します』って帰ったら次は17%減や」。そこで番記者に語ったのが「南海ホークスは好きだけど株式会社南海ホークスは嫌い」のセリフだった。当初は「古い人しか知らない名セリフだからな」と謙遜していたが、ひそかに「(今回)使ってみるか」と決意していた。

封印を解いた理由はもう一つある。ノムさんによると、球団が沙知代夫人を通じて告げていたという〝言論統制〟だ。

「女房に言ってきたんだよ。『これだけは言わないようにお願いします』って。俺がこういう談話で、最後に『これが楽天野球です』って言うのをやめてくれ、と。楽天を悪く印象付けるからって…。それがどんだけ球団にマイナスになるのか分からない。俺は『まだまだ未熟だ。発展途上のチームだ』ってことを言いたいのに…。もっと言えば『フロント、しっかりせい』ってことや。何が気になるんだ?」

いよいよ決定的となったノムさんVS球団フロントの全面対決。しかし、話は思わぬところへと向かうことになる。

=続く=

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