【藤井康雄連載コラム】「門田2世」の吉田正尚は今や率にもこだわる男

オリックスの主砲・吉田正をもっと生かすには…

【藤井康雄「勇者の魂」(41)】これまでの野球人生で門田博光さん、清原和博、秋山幸二、イチローらいい打者を見てきたなか、最後に出会ったのがソフトバンクの内川聖一でした。ミート力、バットコントロールのうまさ、三振をせず、状況に応じた打撃はすごいですよ。つなぎもできるし、返すこともできるし、ここは右方向に打ってくれるはず、と思っていたら右に打つ。外野フライの欲しいところで外野フライを打ってくれる。ヒットだけじゃなく、状況に応じた打撃が自然にできる。もちろん、技術がないとできないことですからね。

でも今年は一軍出場がなく、チーム事情がある中でこういう使われ方になった。まだ38歳だし、体も大丈夫でしょ。全盛期まではいかなくてもここ一番の代打とか、打撃技術は忘れることはないんだから。あとは反応。それをキープできるならまだまだ他球団に行ったって打てますよ。環境を変えれば十分できる。本人はレギュラーでって考えているかもしれないけどね。守備力、肩の力は落ちるからそこを考えてチームがうまく使ってあげたらいいと思います。

「振る能力」を考えたらソフトバンクの柳田悠岐、オリックスの吉田正尚もすごいですよ。2018年にオリックスの打撃コーチをしている時に3年目の正尚がいました。腰を手術したばかりというのはあったけど、大きくない体でフルスイングができる。打撃技術がしっかりして、僕が持ち込んだ4スタンス理論も理解して自分の感覚を持ってくれてたと思います。

当時は振り切ってバットが後ろの地面につくような豪快なスイングが持ち味で、それを理想としていました。昨年あたりから振り切る、というよりうまく当てることが増えたので本塁打は減ってきているのかな。門田さんと比較されることが多いし、似ているところはある。ただ、門田さんは本塁打にこだわった。どれだけ遠くに飛ばせるかというね。正尚は率も残したいし、なおかつ本塁打も、というのがありました。打つことに関してはチームの顔だからそこに守備力、走力が加われば柳田みたいなもっとスター選手になれるんじゃないかな。

選手を引っ張るというより自分が結果を出す、勝っても負けてもいい意味で自分の打撃をするというタイプでしょう。チームワークってプロの世界ではそんなにないと思いますよ。昔のブルーサンダー打線のころはみんなバラバラでも、勝つことでまとまった。ブルーウェーブで優勝したころは神戸の震災があったことでチームを一つにしていましたね。

今のオリックスが苦労しているのは正尚の前後の打者がいないこと。そこに2~3人くらい神経を使わせる打者がいれば得点力が上がる。そこがソフトバンクとの差でしょうね。山本由伸という点をやらない投手がいるのに点が取れないんだからしんどいよねえ。

☆ふじい・やすお 1962年7月7日、広島県福山市出身。泉州高(現近大泉州)から社会人・プリンスホテルを経て、86年のドラフト4位で阪急に入団。長距離砲としてブルーサンダー打線の一角を担った。オリックスでも95、96年の連覇に貢献。勝負強い打撃が持ち味で、通算満塁本塁打(14本)は歴代3位。代打満塁本塁打(4本)は日本記録。2002年に引退後はオリックス二軍打撃コーチ、11年からソフトバンクで一軍打撃コーチを務め、18年にオリックスに一軍打撃コーチとして復帰。今年から総合建設業「共栄組」に籍を置き、JSPORTSの解説、神戸中央リトルシニア、関西創価で指導している。

© 株式会社東京スポーツ新聞社