議員でなくなった者を待つリアルな現実とは?

参議院議員の河井案里被告が、秘書の公職選挙法違反の禁固刑以上の有罪確定や自身の懲役刑求刑などで、失職することが濃厚となってきました。河井被告は、それでも「議員辞職」など、自らの意思で責任を取る様子は見せていません。議員の不祥事や失態が明らかになった場合、どのような場合でも、「辞職」を迫るというのもどうか、と思われますが、刑事罰、それも法律で定められている議員失職の条件に当てはまるのが予測できるケースでも、議員で居続けようとする人が多いのはなぜでしょうか?

これは、議員でなくなった方の現状を顧みることで少しは理解できるように思われます。国会議員の議員一人あたりの歳費は、年間約2200万円。これに、文書通信交通滞在費が年間1200万円、立法事務費が年間720万円、で合計約4120万円が、国から振り込まれることになります。

地方議員の場合は、都道府県レベルの議員で年間の報酬が約1200万円。市町村議員が同じく約500万円。これに加えて、地域でのばらつきはありますが、費用弁済(議会参加の際の交通費、宿泊費のようなもの)が条例の規定に基づき支払われる自治体が多くみられます。これらの多くは、実費支給ではなく、固定額になっています。これに、これも自治体によってはらつきがありますが、政務にかかる費用として、政務活動費が支給されます。政務活動費に関しては、各自治体の条例規定により、政務以外のことには使うことが許されていません。これらを含めて、が、地方議員の報酬になりますが、今、記したように、費用弁済や政務活動費など、各議員によって額が異なってくるものがあるので(「政務活動費」は、未使用分は返還)、確かな収入は分かりづらい、というのが実情です。(金額は、私自身の実体験も踏まえ、独自で統計し算出しています)。

とはいえ、日本の給与所得者の平均年収が、441万円(国税庁企画課・令和元年)ですから、多くの議員は、年収で国民の給与所得者以上の金額を、税金を原資とした収入として得ているというのは事実としてあります。

このお金を得る機会が一瞬としてなくなるのが、議員でなくなった時です。国家公務員の特別職、および地方公務員の特別職となるのが、議員なのですが、退職金がないのに加え、公務員、という公人であったことから、雇用保険も加入できませんから、失業手当もありません。また、市民税や国民健康保険、厚生年金といったものが、前年度の報酬にかかってきますから、専業で議員を務めていた者の場合、まさに「天国と地獄」のような違いで、負担が増します。

地方議員時代、議員専業だった私は、まさにこの「地獄」の状態になりました。いや、まだ、そのまま続いている、といっていいのかもしれません。刑事事件には該当しない事案だったとはいえ、不祥事が絡んでしまいました。よく議員のいう、「秘書のせい」にはしませんでしたが、自分の雇った人物が絡んでの事案で、「なんでやねん」と、私自身、思っているうちに、メディアに叩かれ、議会に「どないなっとんねん」といわれ、特定政党からは「徹底追及する」といわれ、市民団体には監査請求から、民事裁判(「政務活動費」の返還訴訟で、自治体が被告となる完全な民事案件)も起こされ、と、もう何が何だか、でした。のちに、メディアの中でもテレビ局2社が放送や丁寧な文書で謝罪してくださるなど、私が一方的にまずいことをしたのでないことは、メディアも報じてくれた部分もあったのですが、まあ、ネットはどうにもなりません。

この状態で選挙を迎えることになるとどうなるか?議員本人には、選択肢は2つ。出馬するか、見送るか、です。ここで士業などに資格に基づく自営業、あるいは自分や親族、およびそれに近い者が経営する会社などがあれば、選挙の結果に関係なく、その後もなんとか、生計を立てる道筋が確保できる可能性が高くなるのですが、何もなければ、議員でなくなれば、文字通り、何もなくなるのです。政党などに属したままの状態であれば、その後も後援会への寄付などの形で復帰への援助があるのかもしれませんが、所属政党を持たない形のものは、「ゼロ」です。

逆にこの状態でも、当選を勝ち取れば、生活も、ある程度の名誉回復も可能です。それが民意となるからです。近年の例では、国会では参議院議員の鈴木宗男氏、地方議会では兵庫県姫路市議会の酒上太造氏らが、刑事告訴や議員辞職勧告などを跳ね返して、再選、もしくは復活される形で選ばれ、議会での活躍を続けられています。しかし、不出馬、もしくは落選してしまうと、専業議員は、任期終了の翌日から、「無職」生活が待ち受けます。

出馬を断念して、「無職」となるとどうなるか?まさに、私は、このケースでした。まずは、真偽に関係なくネットに書かれた文言(あえて「誹謗中傷」とはいいません)によって名誉はなくなっています。

妻や子供、親類がいれば、血がつながっている、というだけで、「とんでもないことをしでかした議員」の近親者ということになり、職場、友人、学校、そして親戚からさえ、日本では「ない」とされている、差別を受けます。私の例でいうと、親戚はすべて、絶縁。小学生の子どもが「パパは悪い人とネットに書いてある。みんな言ってる。もう一緒に居たくない」と母親に訴え、それが要因のひとつとなって、離婚もしました。彼らにとって、私と関係ないこと、にしないと、世間から身が守れない、のが現実でした。刑事罰はもとより、議会からの「問責」、「議員辞職勧告」など、全く受けたことのない私でさえこうなるのですから、刑事罰を受けられた議員経験者の方々は、推してしるべし、なのではないでしょうか?

ここで、重要なのは書かれたことが、「真偽」に関係なくのところです。確かめようのないもの、明らかに間違いも多いのです。その部分は、法務局も「法整備ができていない」と認める、国内の人権問題の解決されていない部分に当たります。任期終了の翌日から、「公人」でなく「私人」=一般人=なのですから、人権は考慮されてしかるべき、なのですが、実は容赦しないのが、世の中の仕組みになっています。メディアに時々出てくる「元議員」という肩書の方が、ほぼ実名で語られているのがそれを象徴しています。「元議員」は公人じゃないから実名は避けて、と、本人がいっても、すでに国民や住民の代表ではなくなっている一私人の発言は、届ける方法もないのが実情なのです。

年間約数千万円の報酬から、働く場所が見つかるまで所得「ゼロ」への転落。同時に、「公務員」の扱いであったために、雇用保険はありませんから、失業手当ももらえません。都道府県市町村の「首長」だったのであれば、退職金は、任期中に禁固刑以上の刑または罰金の刑でも受けていない限り、支払われますが、一議員にはそれもありません。手に職をつけようにも、厚生労働省管轄のハローワークをはじめ、能力開発に関しては、ほとんどが「雇用保険」加入者に対して手厚い事業となっており、「元議員」は、給付金なく、自分のお金ですべてを行わないといけません。

これらが、議員でなくなった者に待つ現実です。そして、不祥事的な要素が少しでも絡んで、「元議員」になったのなら、次に働く場所も、知人の紹介でもない限り、ネットの書き込みが永久に消えない以上、スムーズにはいきません。刑事罰相当の悪事が発覚しても議席に、しがみつく方が多いのは、こういった現実を知っているからに他ならない、と私は今、リアルタイムで経験していることから思ってしまうのです。(オフィス・シュンキ)

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