転職で気になる製造業界のブラック部分、容赦なく駆り出される「生産応援」とは?

「転職で気をつけろ!業界のブラック」6つの大学でキャリア教育・就職支援の講師をしている筆者が「ブラック企業を見つけることも大切だけど、業界のブラックも考えて欲しい」という視点で取材をしています。今回は製造業のブラック業務について。製造業にある「これは辛いな~」という出来事を皮切りに見えてきた、表裏一体の良いところ・悪いところをお届けします。


「不良品が出た」って話にぞっとします…

取材を行ったのは精密機器を作っているメーカーに勤める30代・企画担当の男性。産業機械などの動力部品になる機器を作っている会社に勤めています。普段の仕事は新規事業の企画や販売戦略作りで、国内外の関係先との連絡をいつも行っています。

「生産部門から不良品が出た、という話が回ってくると『また来るな』と落ち込んでしまいますね……」という話に興味がわきました。メーカーは、原材料を加工して製品を作っていくのですが、作ったもの全てが全て完璧にできるというわけではないそう。作るのに失敗してしまったり、完成したあとに性能を満たしていなかったりすると、「不良品」となってしまうことが多々あるそうです。

一定数の不良品が出てしまえば、もちろんその穴埋めをしなければいけません。お客さんへの納品数・日時はもちろん決まっていますから、不良品の数だけ作り直す必要があります。ただ、工場と言うのは基本的な生産量が定まっていて、それを作る人の数ももちろん決まっています。となると、イレギュラーな生産に対応する力が無い時があるのです。

じゃあどうするか、「生産応援(または工場応援)」という名目で営業・マーケティング・経理・総務といったあらゆる非生産部門から人手を出して穴埋め生産をすることになるのです。部署のメンバー全員で分担をしてヘルプに行くので、半日から1日程度ではありますが、これが意外に辛い……。もちろん製造ラインの仕事は慣れていないので簡単な作業を担当することになるのですが、慣れない仕事でずっと立ちっぱなし。何より、普段自分が担当している仕事が全くできなくなるわけなのでたまったもんじゃありません。

最悪のケースは納品先での発覚

自社の工場で不良品を発見し対応する、ということならまだマシなほう。最悪なのは客先に納品したあとに不良品が発覚するケースだそうです。お客さんは自社のその部品や材料を当てにして生産スケジュールをたてていますから、一度自社の工場にまた運びなおしてー、なんて悠長なことは言っていられません。となると、もう自分たちが行くしかなくなるのです。社内で組織された決死隊が客先の工場に出向いて、そっちで不良品の作り直しや作業をすることになります。

実際に今回取材させて頂いた方は1週間、愛知県の客先の工場に出向いて作業をした経験があるそうです。季節は真冬の12月、不良品を納品した会社の人たちに環境の良い場所が与えられるはずがありません。暖房も効かない広い工場で寒さに耐えながら、そして客先社員の冷たい視線を感じながら1週間作業をしたそうです。

想像するだけでも逃げたくなりますね。急な受注で増産依頼が来て、ということなら利益につながるわけですから頑張れるのでしょうけれど。

良くも悪くもとにかくある「手順書」

どれだけ単純な作業を任されると言っても、文系で技術に関する知識が全くない人にそんな応援作業ができるのか疑問に思いました。すると「メーカーではとにかくどんな作業にも手順書があって、仕事の手順をきちんと残しておくという習慣があります。いざとなったら引き継ぐ時間がなくても誰か代わりをすることができる。技術が失われないようにするための受け継がれたものがあるんですよ」と教えてくれました。

ただ、それも良し悪しがあるそうで、経費の処理や業務報告など基本的な手順が明確になっている仕事に関してはとても良い成果を生み出します。しかし、新しい企画を実行したり、売り上げを上げるために前例のないチャレンジをしたりすることなどにおいては、過去の作業や行動が無いわけですから、手順書を作るのが難しい。手順書を作ることが時間と労力のロスにつながることもあります。そして、手順書に残すとなるとどうしても「やり方が誰でもできる・分かる」ようにとシンプルになりすぎてしまい、深いノウハウの蓄積に繋がらないことも起こりえます。悩ましいところですね。

「生産応援」を支えるために「手順書」という習慣がある。ノウハウや技術の継承・標準化という面では素晴らしいが、時にそれが革新的なチャレンジの足かせになることもあります。この業界で働かれている方々も良い風土を残して、新しくチャレンジできる環境を作ろうときっと努力されているのでしょうけれど、取材をしてみて悪いところ(ブラック)も浮き彫りになったように感じます。

これから製造業への転職を考えている方は、ぜひ応募先の企業が昔ながらのスタンスを取るのか、効率やスピード化といった新しいスタンスを取るのか、調べてみてください。きっと転職先の新しい職場でも心構えが変わってくるはずです。

© 株式会社マネーフォワード