【有馬記念】見守り続けた丸内助手が明かすラッキーライラックが〝大人の女〟になった日

運動中も大人びた振る舞いを見せるラッキーライラック

【有馬記念(日曜=27日、中山芝内2500メートル)栗東トレセン発秘話】「子供のころの歯医者さんの待合室を思い出してみてください。どんな気持ちでしたか?」

ラッキーライラック担当の丸内助手から以前、こう〝逆質問〟されたことがありました。えっ、歯医者さん? 若干、混乱しながらも「えっと、毎回すごく緊張していました。診察室に呼ばれるまで怖くてソワソワして、ずっと落ち着かなかったと思います」と答えると…。

「昔のラックもレース前はそんな感じでした。自分のレースでない時でさえ、近くの馬房の馬が競馬に向かう準備をしていると〝私も行かなきゃいけないんじゃないの!?〟って興奮しだして…。毎週末、それを繰り返すもんだから〝そんなんじゃ消耗しちゃうよ〟ってなだめてたくらい。なかなか大変でしたよ」

独特な例えで昔のラッキーライラックについて教えてくださいました。そんな彼女がようやく馬房で自分の時間を過ごせるようになったのが、昨年のエリザベス女王杯のころだったそうです。

「大人になっても歯医者さんは緊張するけど、何も手に付かなくなるほど怖がったりはしないでしょ。ラックも経験を積んだからか、競馬の週になっても〝ああ、レースなのね。でも私は私のできることをやるだけ〟って落ち着いてくれるようになった。それが〝本格化した〟と言われ始めた時期とかぶるんです。これだけポテンシャルが高い馬でも、メンタル面が占める割合ってやはり大きいんですよね」

前走でエリザベス女王杯連覇を成し遂げたラッキーライラック。あの勝ちっぷりは、まさに「女王」の名にふさわしい、堂々たるものでした。

丸内助手とは「ラッキーライラックとエネイブルの走りがかぶる」というお話をしたこともあるのですが、彼女らに共通するのは走りのフォームだけでなく、「気品」です。トレセンを歩いているだけでも、それがにじみ出ていて…。

〝見とれるほど美しい馬〟ラッキーライラックが競馬場で走る姿を見られるのも有馬記念が最後。唯一無二のパートナーとしてファンにも有名な丸内助手は、どんな思いで送り出すのでしょう。

「寂しい…とはまた違って。ラックとは常にリアルをともにしてきたというか、毎回さまざまな現実と向き合い、いろんな課題を克服しながら、ここまでやってきましたから。ついに引退という現実が来たのか…って、ただしみじみと感じている。そう言ったほうが僕の感情に近いと思います」

ラッキーライラックを「オルフェーヴル産駒の星」とも表現していた丸内助手。そのオルフェーヴルは現役時、有馬記念を2勝しているのも後押しになりそうです。

「それにラックは器用なのでトリッキーなコースは合うと思いますよ。残り5ハロンの競馬でいいと思っているので、道中は死んだふりをしていてほしいです」

ニッコリしてそう口にした後、「ついに引退か」と最後にまたポツリと漏らした丸内助手。冒頭の〝歯医者さん〟の例えからも、戦友である彼女を、時に我が子のように見守ってきたのでしょう。有馬記念で用意されているのが咲き乱れるライラックを思わせる「最高の花道」であることを願ってやみません。

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