「売り上げ85%減」日本料理店の妙案 その名も「魚歳暮」 釣り魚加工、会席の味に 

「魚歳暮」サービスを考案した石坂昌司社長=三浦市初声町の「じこう」

 売り上げ85%減─。新型コロナウイルスの感染拡大は、仕出しや会席が中心の日本料理店を経営する「じこう」(神奈川県三浦市)に大打撃を与えた。緊急事態宣言当時は「この先、どうしようか。真っ暗だった」と振り返る石坂昌司社長(48)は今、前を向く。自社の強みに気付いて始めた新たなサービスを「喜んでくれる人がいる」。それが原動力だ。

 コロナ禍で葬儀の仕出しや法事の会食といった需要がなくなり、地域の祭り、イベントもすべて中止。地元密着の同社には「大きな痛手」で、売り上げは前年の15%にまで落ち込んだ。少しずつ回復しているが、まだ「半分いくか、いかないか」という状況にある。

 そんな同社が今冬、新たに打ち出したのが、釣り人が釣り上げた魚を調理・加工し、お歳暮として贈る「魚歳暮(ぎょせいぼ)」サービスだ。

 緊急事態宣言で店は休業し、「調理場は空いている。器具もあるのに、やることがない」。一方、釣り宿を経営する知人は「忙しい」「釣りをやる人は来る」という。「釣った魚を持って帰っても家族にさばくのが面倒くさいと言われる」「台所が生臭くなると嫌がられる」などの悩みを聞いていた石坂社長は「魚をおろし、味を付けるのはできる」と釣り人の代わりに調理することを思い付いた。

 8月中旬、手書きで「太公望様限定! モニターご協力のお願い」と記したチラシ50枚を近隣の釣り宿に配布。釣った魚を店に持ち込んでもらい、モニター料金で調理・加工する代わりに、食べた感想を教えてもらう取り組みを始めた。

◆漬け丼のネタ、みそ漬け、天ぷら…大好評

 仕出しや会席料理を手掛ける店の調理場は衛生管理が整い、調理人の技術も高い。ただ三枚におろすだけでなく、魚の状態に合わせて切り身を漬け丼のネタ、みそ漬けや照り焼きにして真空パックしたり、天ぷらやフライにして冷凍したり。レシピと盛り付け例、釣った魚の記念写真、店のパンフレットも同封し釣り人名義で後日、自宅や実家、友人宅などに発送した。

 モニターからは「とてもおいしかった」「ごみが出ないのがよい」などと大好評。手応えを得た石坂社長は「こんなに喜んでくれる人がいるとは思ってもいなかった。釣った魚が宝物になるお手伝いを」と本格的に展開することにした。

 次の課題は宣伝だった。地元のかながわ信用金庫から紹介された県よろず支援拠点に相談。11月初旬、新サービスを「魚歳暮」と名付けてお歳暮シーズンに打ち出すことを提案された。この「何ですか、と驚いた」(石坂社長)というPR作戦が奏功し、NHKと民放、FMヨコハマ、全国紙にも取り上げられた。

 新サービスの利用件数はまだ30件程度だが、石坂社長は「技術にお金を払ってくれる。強みを生かせばやれることがある。コロナが収束しても新サービスを続けていきたい。地域が元気になるようお手伝いできれば」と話している。

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