心ならずも

 何度も反復された言い回しがあった。〈…知らないうちに行われたこととは言え…〉〈知りうる限りの認識に基づいて答弁し〉〈結果的に事実に反することに…〉-要は「心ならずも」こんな事態に…と力説しただけ。案の定、だ▲「桜を見る会」の前日に開かれた夕食会の費用補塡(ほてん)問題を巡って、安倍晋三前首相が衆参両院に答弁の訂正を申し出、議院運営委員会での説明に臨んだ▲安倍氏は「道義的責任は重い」「責任を痛感している」と述べた。だが、それは、この状況に関する認識の説明であり、心境の説明である。「重い」と痛感した責任に呼応する具体的な行動がないのは首相時代からの“十八番”▲自身の不起訴処分を引き合いに、一連の支出は「厳しい捜査の結果、問題ないと判断された」と語った。そうではないだろう。安倍氏の刑事責任を問うことは難しいと判断したのだ。「シロ」のお墨付きをくれたわけではない▲地元の有権者に対するおもてなしについて「支持をカネで買う行為だ」と詰め寄られて、自分は首相まで務めたのだ、選挙の心配などしていない、いつだって圧勝だ-と反論した場面があった。それは論点のすり替えだ▲「一定の説明責任は果たした」らしい。とんでもない。こんな程度で言いくるめられるわけにはいかない。(智)


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