認知症・知的障害に特化 再犯防止プログラム 長崎刑務所で全国初 能力に応じた処遇を 2022年度から

認知症高齢者と知的障害者に特化した処遇を始める長崎刑務所=諫早市小川町

 長崎刑務所(諫早市)は、認知症高齢者と知的障害者に特化し、受刑者の能力に応じた処遇を2022年度、本格的に開始する。取り組みは全国で初めて。更生と円滑な社会復帰につなげる知見を蓄積してプログラムをつくり、再犯防止の新たなモデルケースとする。既に認知症や心身に障害のある高齢受刑者を九州内の刑務所から受け入れており、将来的には知的障害のある受刑者も含め100人規模を想定している。
 長崎刑務所などによると、同刑務所には19年4月、刑務作業の企画や指導をする処遇部に「社会復帰支援部門」を新設。九州内の刑務所から認知症(疑い含む)受刑者の移送を今年2月に受け入れ始めた。
 プログラムの対象となる受刑者は現在、約20人。認知機能の低下を防ぐため、脳の活性化を促すトレーニングなどを実践している。
 受刑者の高齢化と共に、認知症高齢者の処遇は全国の矯正施設の課題となっている。法務省は16年、14年末時点で全国の刑務所にいた60歳以上の受刑者のうち13.8%に認知症の傾向があるとの推計を初めて公表した。長崎刑務所では高齢者用工場での軽作業や、作業ができない人向けの通称「養護工場」と呼ばれる居室での作業も実施してきた。
 一方、知的障害のある受刑者については、九州内の受刑者全体の3%程度いるとされている。ただ、実際にはさらに多いとの指摘があり、今後、各刑務所で知的能力の精査が進められるとみられる。長崎では療育手帳を持っていない当事者には取得を促進し、出所後に福祉サービスを受けられるよう手続きを進める。
 地元にある社会福祉法人、南高愛隣会(諫早市)は、罪を繰り返す障害者を福祉の視点で支え更生を図ってきた。長崎刑務所とは再犯防止に関する協定を結んでいる。全国初のプログラムが始まる背景には、こうした「地の利」がある。「刑務所だけでは難しく、認知症高齢者や知的障害者の再犯を防ぐためには専門機関の“相棒”が必要だった」と関係者は明かす。
 22年度の本格スタートに向け、今後は居室のバリアフリー化などの環境整備や職員らの研修教育といった準備を進める。社会復帰への支援では南高愛隣会をはじめ、これまで以上に民間機関との連携を強めていく。
 長崎刑務所の関雅義所長は「(認知機能が衰えるなどした受刑者は)できなくて当然なのに、これまで怒られてきた。認知症や知的障害者に怒ったり怒鳴ったりしても仕方がない。そういう人たちに理解させるため、これまでと全く異なる教育的な指導をしなければならない。前例がなく手探り状態だが、民間の力も借りながら再犯防止につなげたい」と語った。


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