児童虐待防げず 背景に「職員の業務量が過大」 横浜市、報告書を公表

横浜市役所

 横浜市は、2018年度に市内で発生した児童虐待の重篤事例について、市の対応を検証した外部有識者による報告書を公表した。大やけどを負った3歳の女児が自宅に放置されたケースなど3件の事例を取り上げ、虐待を防げなかった背景について「職員の業務量が過大」と指摘。児童相談所や区役所での人員・組織体制の強化を求めている。

 報告書によると、全身に全治3カ月のやけどを負った女児に必要な治療をせず、母親と交際相手の男は外出。3日後、女児のきょうだいが自宅近くで母親を捜しているのを近隣住民が見つけ、放置が発覚した。母親と交際相手の男は保護責任者遺棄罪で有罪判決を受けた。

 元夫の家庭内暴力が原因で、母親と女児らが県外から市内に転入してきたのは事件の約1年前。市も保護が必要な子どもと認識していたにもかかわらず、ネグレクト(育児放棄)など新たなリスクを想定した対応ができていなかった、と指摘。児相、区こども家庭支援課など関係機関の役割分担も不十分だったとし、連携の強化を求めた。

 外国籍の母親が1歳6カ月の女児に暴行を加えて大けがをさせ、傷害罪で有罪になったケースでは、子どもの前での夫婦げんかによる心理的虐待を以前から把握。日本語が話せない母親のために、児相が面接でボランティア通訳を手配するなどの対応を取っていたものの、「母親の困り感の把握など踏み込んだ面接ができていなかった」と問題視。外国籍の保護者に対する支援の向上が必要とした。

 父親が生後3カ月の男児を放り投げて重傷を負わせ、傷害罪で有罪となった事例。児童虐待の通告もなく発覚まで父親と児相、区こども家庭支援課との関わりはなかったが、父親に対する「乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)」への意識啓発が不十分だったとして、支援の充実を課題とした。

 報告書では、三つの事例を「日頃から丁寧な支援が必要とされている家族だった」と総括。児相や区の対応について「できる限りの努力をして子どもや家族への支援を行っていた」としつつ、結果として虐待を防げなかった現状を踏まえ、「職員が担う業務量が過大であることが浮かび上がった」と指摘。組織体制の整備や専門性の向上など、取り組みの推進を求めた。

 市によると、19年度に市の児相や区役所が対応した児童虐待に関する相談・通告件数は過去最多の1万998件。虐待件数は全国的に増加傾向にあるといい、市は19~20年度にかけて約100人を増員している。

 市こども家庭課は今後、専門職の知識・技術向上に向けた研修の実施や関係部署との情報共有の徹底などを図っていく考えで、「事例が起きてからの2年間で体制を強化してきた。提言を受け止めて、同じような事例が起きないように取り組んでいきたい」と話している。

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