家族を介護する若者「ヤングケアラー」の深刻な実態

毎日、長時間病院に…青春を謳歌できず「大学退学も考えた」

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 家族の世話や介護をしている若者を「ヤングケアラー」と呼ぶのをご存じだろうか。11月に埼玉県が高校生らを対象とした調査結果を発表し、注目を集めた。ついに国も12月から教育現場を対象とした全国規模の調査を開始、2021年3月末にも結果がまとまる見通しだ。しかし、まだ若者たちが抱える深刻な実態はまだあまり知られていないのが実情。長くヤングケアラーの調査・支援に取り組んでいる大阪歯科大の濱島淑恵・准教授に寄稿してもらった。

 ▽「ヤングケアラー」とは?

 「ヤングケアラー」という言葉がある。最近少しずつ報道でも取り上げられるようになり、知っている人もいるかも知れない。簡単に言うと「家族のケアをしている子ども・若者たち」のことだ。

 ただ、日本には正式な定義は存在しておらず、国や自治体、団体によってさまざまだ。一般社団法人・日本ケアラー連盟は「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子ども」としている。

 家族の世話や介護などの「ケア」というと大人が担うもので、子どもや若者がケアをしていると聞いても「にわかには信じがたい」と思う人もいるだろう。

 筆者らは16年からヤングケアラーの調査を行ってきたが

 「家族のケアを担う子どもがそんなにいるはずないだろう?」

 「いい加減な数字を示すものではない」

という言葉を各所から浴びせられ、悔しく悲しい思いをしたことが何度となくあった。ただ、それが世間一般の感覚だったのかもしれない。

 2020年7月、埼玉県が日本で初めて、行政によるヤングケアラーに関する調査を実施した。県下全高校の全2年生、約5万人を対象とした大規模調査だ。11月に埼玉県が発表した中間報告では、ヤングケアラー(過去にヤングケアラーだった人も含む)の存在割合は4・1%だった。すなわち、高校生の25人に1人、クラスメートの1~2人が家族のケアをしている(していた)ということになる。埼玉県による調査は多くの人に驚きを与える、画期的なものだった。

▽ヤングケアラーは身近な存在

ヤングケアラーは実は身近な存在なのだ。

 埼玉県の調査より前に、筆者の研究チームは2回の調査(16年の大阪府立高校10校約5000人の高校生を対象とした調査、2017年の埼玉県立高校11校約4000人を対象とした調査)を実施した。

 これらは、日本で最初に子どもたち自身に質問したヤングケアラーに関する調査だが、いずれもヤングケアラーの存在割合は約5%という結果だった。筆者らの調査では高校生の20人に1人が家族のケアをしているということが示されていたのだ。

 調査によって設問が若干異なるため、多少数字は上下するものの、筆者らの調査と埼玉県の調査の結果にはそれほど大きな開きはなく、ヤングケアラーが一定の割合で存在していることが判明した。

 そして、国は12月に全国調査を実施し、他の地方自治体も実態の把握に向けて動き出している。ようやくヤングケアラーたちの存在が社会的に認知され始めたと言える。

▽誰をケアしているのか? 

 埼玉県の調査と、筆者らの2つの調査の結果からヤングケアラーたちの詳細をみていきたい。

 まずケアの対象(誰のケアをしているか)については、いずれの調査でも「祖父母」(埼玉県調査は曽祖父母も含む)と「母」という回答が多かった。

 なお、筆者らの調査では、ケアの対象となっている祖父母は、身体に障がいを抱えていたり、身体機能が低下していたりするケース、身体の病気にかかっているケースが多かった。母親の場合は身体の病気のほか、精神疾患や精神障がい、精神的に不安定な状態にあるというケースが多数を占めた。高齢化社会やメンタルヘルスといった社会問題を背景に、家族のケアを担うヤングケアラーが存在していることが浮き彫りになった。

 ケアの内容をみると、全ての調査で「家事」が最多。次に「感情面のサポート」が多く挙げられていた。さらに、ケアの頻度は「毎日」が最も多く約4割、時間は「1時間未満」が平日、休日ともに3割前後を占めた。

 逆に4時間以上のケアをしている子も、平日で1割前後、休日では2割以上を占めている。家で勉強する時間や自分のために使う時間を十分に取ることもできず、肉体的・身体的負担の大きいケアを担っている子も相当数いる、ということだ。

 ▽ヤングケアラー、壮絶な実態

 筆者が話を聞いた元ヤングケアラーのAさん(20代)の事例を紹介したい。

 Aさんは高校生の時に祖母が認知症になったのをきっかけにケアを始めた。

 家族は持病のある祖父、祖母、母、Aさんの4人。仕事とケアで忙しい母親を助けようと、お手伝い感覚でケアを始めたそうだ。また、Aさんはいわゆる「おばあちゃん子」として育った。このため、祖母にケアを必要になった時「何とかしてあげたい」と強く感じたという。

 当初、Aさんが担ったケアは家事と祖母の見守りが中心だった。しかし、その見守りも決して楽なものではなかったという。祖母はふと歩き出したり、お風呂に入ろうとしたりすることがあり、そのたびに祖母をなだめなければならなかった。常に緊張しながら祖母の様子に注意を払っていたそうだ。

 また、祖母が入院した時は「お見舞い」をした。お見舞いというと大した手間ではないように思えるが、Aさんがしていたお見舞いは、毎日、長時間に及ぶものだった。

 そもそもの発端は、祖母が入院をした時だ。祖母に付き添っていたAさんは、祖母の身体拘束の同意を病院関係者に求められた。その時は何のことかよくわからなかったが、「点滴が抜けないようにするため」と説明され、同意した。

 その後、お見舞いに行ったAさんは、祖母の姿を見て愕然とした。暴れるわけでも、動きだすわけでもないのに、祖母はずっとベッドに拘束されていた。嫌がる祖母を前に「自分のせいでおばあちゃんはこうなったんだ」という強い自責の念がAさんに襲いかかった。

 病院側は、家族がいる時だけ拘束を解いてくれた。このため、責任を感じていたAさんは、時間さえあれば病院へ行き、長時間祖母のそばに付き添うようになったという。

 ▽自分が「空っぽ」に

 長時間のケア生活は当然、Aさんの生活にも影響を及ぼした。大学に進学はしたものの、一部の授業は休まざるを得ず、単位や国家資格の取得をあきらめかけたり、退学を考えたりしたこともあったという。Aさんは「教室の一番後ろに座り、他者を拒むようなオーラを発していたのではないか」と振り返る。友人の誘いはすべて断り、授業が終わるとすぐに帰宅した。

 「友達付き合い」はほとんどできず、もちろん部活動で「青春を謳歌すること」などありえなかった。Aさんは様々な思いや悩みを抱えつつも、誰に相談することもなく、ただ一身に「自分が家族を支えなければ」と考えていた。

  Aさんのケースはヤングケアラーとしては典型的な事例の一つだ。ただ、精神力、体力を要し、時間にすると1日4時間以上を費やした。

 その後、祖母が介護施設に移り、Aさんのケアは終了したが、次は「介護ロス」に直面する。ケアする役割が無くなり、自分が「空っぽ」になってしまったのだ。ほかのヤングケアラーの多くも経験している。

  Aさんは健康状態も悪化し、パニック障害も引き起こした。症状は何年も経過した今も現れることがあるそうだ。

 ケアをしている期間だけでなく、ケアを終えた後の人生にも影響が残る。なんとか大学は卒業したが、卒業が叶わなければその影響はさらに大きかっただろう。

 現在のAさんは持ち前の聡明さと快活さを生かして、自分の人生を力強く歩んでいる。最近では、大阪でヤングケアラーたちが集う団体の運営メンバーとしても活躍している。

  ▽ヤングケアラーが「存在し続ける」といえる理由

 20年9月時点で、日本の65歳以上の人口は3617万人、高齢化率(65歳以上人口の総人口に占める割合)は28・7%だ。いずれも増加が続いており、この傾向はさらに数十年は続くと推計されている。

 また、メンタルヘルスの問題も深刻だ。精神疾患で医療機関にかかっている患者数は増加を続け、2014年は392万4000人、2017年には419万3000人にまで増加した。

 また、ヤングケアラーはひとり親の世帯に多いことが複数の調査結果で示されており、ひとり親世帯自体が増加し続けている。

 以上のような状況を踏まえると、今後もヤングケアラーは増えていく可能性が大きいと筆者は考えている。

 ただ「ヤングケアラーを無くさなければならない」わけではないと筆者は考えている。家族をケアすること自体は悪いことではなく、得られることも多いためだ。

 しかし、負担が大きすぎ、学校生活や健康面等にまで影響が生じるヤングケアラーたちもいる。そうなると、子どもの人権に関わる問題になってくる。

 このような事態を防止し、減らすための方策が必要だ。そしてヤングケアラーたちがケアを担いながら学校へ通い、友達もつくり、健康を保ちながら、自分の人生を歩んでいくためのサポートである。家族介護を前提とした福祉制度の見直しや改善、ひとり親世帯への支援の充実など、さまざまな制度改革が必要となる。膨大な時間がかかるだろう。

 ▽今、ヤングケアラーたちにできること

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 では、目の前にいるヤングケアラーたちのためにできることは何か。

 まずは、多くの人がヤングケアラーの問題を認識することだ。特に学校での理解、配慮は欠かせない。教師の理解が得られなければ、彼らには居場所がなくなり、学校を通い続けることさえ困難になる。

 福祉、医療の業界も同様だ。現在もなお、ヤングケアラーという言葉は浸透していないと筆者は感じている。積極的に研修会に参加するなど、学ぶ機会を増やす必要がある。周囲の理解が進めば彼らの生きづらさはかなり解消されるはずだ。

 地域の支援も不可欠だ。子ども食堂のような食事支援、学習支援や居場所づくりなどはヤングケアラーにとって大きな助けとなる。しかし、そこにヤングケアラーという視点をいれた一工夫を加える必要がある。彼らが担うケアの実態とその思いを傾聴する、あるいはヤングケアラー同士が出会えるような仕掛けを考えるなど、孤立を防ぐためにできることは多いはずだ。

 そして、当然ながら地方自治体も、ヤングケアラー支援の拠点づくりや、学校や地域と、様々な支援サービスとの連携体制の構築など果たすべき役割は多い。埼玉県の調査は「大規模調査」と強調されることが多いが、この調査は「地方自治体による調査」である点に真の価値があると筆者は考えている。ヤングケアラーの実態を把握し、それを踏まえた支援体制の構築に日本で最初に取り組み始めたことにこそ意義がある。今後の埼玉県の展開に期待したい。

 そして皆さんにも、日本の社会に何万人ものヤングケアラーが存在していることを忘れないでほしい。(大阪歯科大准教授=濱島淑恵)