創業90周年を迎えた神奈川県逗子市の「とうふ工房とちぎや」(同市久木3丁目)が、葉山町の農家に伝わる在来大豆「たのくろ豆」を使った豆腐作りに挑戦している。日本の食文化を伝えようと、各地の個性的な在来大豆を使った豆腐を販売し、子どもたちに豆腐やみそ作りを教えてきた「まちの小さな豆腐店」。甘さと緑色が特徴の豆を生かした地元の味で、「三浦半島の新しい特産品に」と夢を膨らませている。
「きれいな緑色でしょ。口に入れた瞬間、甘みが広がってびっくりする」。逗子出身でとちぎや3代目の亀田勝さん(60)が、収穫したたのくろ豆を前にほほ笑む。「ばあちゃんから『たのくろはうまくて希少。大事に食べな』と言われた思い出もあります」
田んぼのあぜに種まきしたことが由来のたのくろ豆。三浦半島に伝わり、海風のミネラルを含み、甘さが特徴だ。だが、栽培面積は少なく、希少という。
逗子・葉山唯一の豆腐店のとちぎや。2代目までは「効率重視」で輸入大豆を使っていたが、亀田さんは国産大豆に切り替えた。安価な外国産や大量生産品が多く出回り、近年は在来品種の生産が衰退した中、「豆によって特徴が全然違う、日本の大切な食文化を身近に」と、相模原の津久井在来大豆や、県外の3種のブレンドなどを使った豆腐作りに力を注ぐ。
小学生らに在来大豆を使った豆腐やみそ作りも教えてきた。「地大豆」の魅力を地道に伝えながら、在来大豆の豆腐も売れるようになるなど、共感の輪の広がりも実感する。
構想を温めてきたたのくろ豆の豆腐販売に挑むため、葉山町下山口の農家から豆を譲り受けた。三浦半島には脱穀設備などがないため、相模原の農家に相談すると快諾され、畑や道具も貸し出してくれた。6月に栽培を始め、試行錯誤しながら11月に無事20キロを収穫。今月23日に試食会を開くと、豆腐は「香り豊かでスイーツのように甘い」と大好評。亀田さんも「完璧な味」と胸を張る。
冬の間に50丁の豆腐を作って販売する予定で、残りの豆は種まきして育てるという。「ゆくゆくは地元で大豆を育て、創業100年のころには看板メニューにしたい。地元の食文化を盛り上げたい」。亀田さんはそんな夢を見ている。