コロナ対策:47都道府県知事の通信簿(歴史家・評論家 八幡和郎)

 年末年始に当たって、地方自治についての記事を、三本ほど連続して書きたい。今回は、週刊「女性自身」に載せた「全国47知事 コロナ対応ランキング」という記事についてもう少し掘り下げて説明する。

 正月早々には、「日本の地方振興策がいつも失敗してきた本当の理由」というテーマを書く。ちょうど、youtubeの松田政策研究所チャンネルというところで、特番『GOTOキャンペーン中止から考える”地方再生”』という動画が流されて私と松田学(元財務省・元代議士)が対談しているので、それを題材に、地方振興がどうしたらできるか国土政策の歴史から論じている。この動画も是非、ご覧頂ければと思う。

 この番組では、あわせ拙著「日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎 (光文社知恵の森文庫) の解説もしている。正月休向きの本だと思っている。

 そして、第三弾は「安倍政権の遺産、菅政権の課題」というタイトルで、安倍政権の総括と菅政権が取り組むべき問題を巨視的に書くことにする。

 さて、「女性自身」の記事は、「地方行政の専門家・八幡和郎さんが10万人当たりの『感染者数』『重症者数』『死者数』『経済対策』でポイント化。全国47知事『コロナ対応ランキング』 ワースト3は玉城デニー沖縄県知事、小池百合子東京都知事、吉村洋文大阪府知事」というタイトルがついている。

 ここで私の総合評価として次のような文章が出ている。

「10万人あたりの感染者数、死亡者数、重症者数の3指標に加えて、”近隣県との比較”、”経済を過度に萎縮させてないか”、”同規模自治体との比較”、”医療体制”を考慮すると高評価は鳥取県です。県と市の連携がよい大分県、きめ細かい医療体制の和歌山県、新潟県、島根県、香川県、長野県、山梨県なども評価できます」

 私が言ったことの要約としてはこれで正しいのだが、非常に短縮されたものなので、少し解説したい。

 この記事のために、各都道府県の「10万人あたりの感染者数、死亡者数、重症者数(12月9日まで)」を割り出してみた。この三つの数字のうちどれを使うべきか悩ましいところだったのだが、たとえば死者数だと、少ない都道府県については、あまり意味のない数字とも言えた。

 そこで、それぞれの順位を出して、その平均で汚染度ランキングをしてみた。そうすると、悪い方から沖縄、東京、大阪、北海道、神奈川、兵庫、埼玉、愛知、京都、奈良がワースト10。ついで、千葉、茨城、熊本、福岡、石川、山梨、群馬、三重、宮城、滋賀、静岡、富山と続いて和歌山が中位である24位。あと、岡山、福井、愛媛、鹿児島、福島、徳島、広島、宮崎、栃木、青森、高知、山口、岩手となり、ベスト10に入って、長野、佐賀、大分、香川、島根、長崎、山形、秋田、新潟、鳥取となる。

 とくに、鳥取県は12月28日に至っても、いまだ、死者ゼロである。また、鳥取県は、ほとんど汚染されていないだけでなく、PCR検査の実施率、重症者用のベッドの確保といった対策も非常に高い水準で行われており、あらゆる意味で模範的である。

 和歌山県については、仁坂吉伸知事が陣頭指揮して、非常にきめ細かに医療対応が行われている。「新型コロナウィルス感染症対策(その44) ‐大阪が危ない。日本も危ない」というメッセージを出しているが、そのなかでこんなことをいっている。

「マスコミなどの報道では、医療崩壊の危機が迫っていて、医療現場は大変だという状況が大いにクローズアップされ、医療の専門家が登場して危機を訴え、人々が行動を自粛してくれて、感染をしないようにしてくれなければ、もう医療が持たないという発信を強くされます。また、こんな大変な時にGoToトラベルやGoToイートなどはとんでもないことで、しばらくはやめよ、そればかりか、こういう危険を考えずにGoToトラベルなんぞ考えた菅総理や政府がけしからんといった声が野党政治家の口を借りて叫ばれます。

 しかし、私は、これだけではないのではないかと思います。理論的には医療現場が大変だから、一挙に国民の行動を自粛させよというのは、その両者を繋ぐ大事な機能についての考慮を全く欠いた議論ではないかと思うからです」

 「国民の誰かがコロナにかかったとしますと、その人と病院との間に保健所や、それを統括している都道府県の保健医療行政チームがいるわけです。この人達が陽性者を隔離し、その陽性者から行動履歴を聞いて、他に感染している人がいないかを発見して、PCR検査をし、隔離し、行動履歴を調査して、という地道な努力をずっと続けているのです」

 「この人達は、陽性者又は患者を適当な病院へ入院させるアレンジもするわけで、この人達がコロナの感染を局地的に抑え込めていれば、コロナの爆発は防げて、病院の崩壊などは起こりようがないのです」

まことにもっともなのである。

また、上手にやっている県では、県と市町村の協力が非常にうまくいっている。大分市では、第一波のときに、感染者が出た風俗店の名前をただちに明らかにしたので、見事に追跡ができ押さえ込めた。その後も、PCR検査も円滑に行われており、上記の和歌山県知事と同じく、陽性者が出たら押さえ込むという作業が緻密に行われているので拡がらず、九州の周辺県と比べてもいい数字が出ている。

 香川県も四国のなかでもっとも数字が良いが、これもスピード重視で押さえ込む姿勢の成果だ。島根県も鳥取県と同様にうまくいっている。

 新潟県も死者がその後、三人出ているが、12月9日の段階ではゼロだったし、周辺と比べても突出して良好だ。かつて、新型インフルエンザ対策でドライブスルー方式でのPCR検査を行うなど意識が進んだ県である。

 同じく、長野県や山梨県も周辺県との比較において良好だ。長野県はもともと医療先進県として定評がある。山梨県では長崎幸太郎知事が、感染対策認証制度を創設して飲食店などでの経済と両立させながら上手に対策を講じているし、ホテルでの療養について狭い部屋に閉じ込めることでの問題を避けるために、二部屋すつ使えるようにしたり、県職員を常駐させて御用聞きをするコンシエルジュ制度を運用して、隔離者が外出などしないように対策を講じている。

 そのほか、宮城、広島、福岡などの数字はそれほど良くないが、大都市であるにしては、よく踏ん張っているといっても良いと思う。

 秋田あたりは、数字はいいのだが、帰省するなとか極度に防衛一本槍の結果であって、はたして、それでいいのか疑問も感じる。

 沖縄の数字は論外。対策も後手に回りっぱなし。北海道も二度にわたり全国的な汚染スポットになっている。観光地だからというが、日本最大の観光都市京都の数字が周辺府県と比べてまずますなのだから、あまり関連性はないのだ。

 大阪は、当初は威勢がいが良かったがその後、失速。十三市民病院での医師10人敵前逃亡事件では、院長先生が専門技術を磨けなくて仕方ないとか敵前逃亡を容認するような発言までして、医療界の腐敗もひどいなかで、行政改革が進行中にコロナ襲来が痛かった。

 東京は全国でもずば抜けた医療資源をもちながら、知事が人気取りとパフォーマンスばかりしているのではどうしようもない。猪瀬、舛添が知事だったら、こうした時には力発揮していただろうと思う。

 全般的にいうと、やはり官僚出身の知事、しかも、どっしりした調整型でなく、陣頭指揮型の知事のろころがうまくやっているという印象だ。

 なお、コロナ問題については、「日本人がコロナ戦争の勝者となる条件」(ワニブックス)という単行本も書いているし、アゴラには、 「コロナに負けた日本の医療の抜本的改革を提案する 」「医療崩壊したら悪いのは医療界、日本のコロナ被害は世界最低水準」、「医師会は医師に年末年始返上を呼びかけるべきだ」、「ワクチンを何ヶ月も遅らす日本の医療界の利権構造」といった記事も書いて良く読んで頂いているので、興味のある方は参考にして欲しい。

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