コロナ、暮らし支援、首里城、製造の現場…各分野の当事者4氏は2020年をどう見たか

 沖縄県内でも猛威を振るった新型コロナウイルスや名護市辺野古の新基地建設問題、首里城の再建計画など、ニュースがめじろ押しだった2020年も残りわずか。首里城復元技術検討委委員の安里進県立芸術大名誉教授、オリオンビールの児島麻理子広報室長、県立中部病院感染症内科の高山義浩医師、おとなワンサードの富田杏理代表取締役の4人に、この1年を振り返ってもらった。

【復興】安里進・県立芸術大名誉教授 美術工芸品の修復が1番の課題 首里城の復元はエンドレス

 首里城が焼失し、昨年12月から国や沖縄美ら島財団の委員会出席のため、滞在していた奈良と沖縄を行き来した。新型コロナウイルスの影響で移動が制約される中、今年5月から再び沖縄に戻り、資料分析に追われた一年だった。

 首里城を支えた技術や伝統文化を立て直してこそ、本当の意味での首里城再興となる。一番の課題は正殿を含む美術工芸品の修復だ。県の主体性を示すためにも、県内で技術者を養成することが重要となる。

 平成の首里城復元の反省点は、地元の意見にあまり耳を傾けず、国の主導で進めたことにある。国は令和の復元で「見せる復興」を進めており、来年以降も大龍柱の向きなど議論を重ねることが求められる。

 少なくとも30年後には大規模な修復が必要となる。その際、現在私たちが集めた根拠が再検討される。見直し作業を繰り返すことに意義があり、その度、当時の技術について理解が深まり事実に近づく。首里城復元はエンドレスな作業だ。来年も精いっぱい仕事をする。

【笑顔】児島麻理子・オリオンビール広報室長 県民に笑顔を、と新商品打ち出し さらに地域と深く

 2019年12月15日にオリオンビールの広報室長に就任した。20年は沖縄に深く関われた1年だった。新型コロナウイルスという未曽有の事態だったが、オリオンビールとして県内飲食店のテークアウト、デリバリーサービスをまとめたサイトの立ち上げや、宅飲み用動画の配信など、通常の商品発信ではない仕事を通じて、県民と深く向き合えた。

 県民に笑顔を届けようと、地元の特産品を使った新商品を次々と打ち出す中で、各地の生産者と会うことができた。オリオンの広報室長で良かったと思えた1年だった。

 オリオンビールの経営体制が新しくなったことに、県民には期待と不安があると思う。期待に応えられているのか、プレッシャーは常にある。それでも、商品を作った人やマーケティング部門など、多くの人の思いを最後に発信するのが自分の仕事だと思っている。

 21年は仕事の枠を超えて、沖縄とさらに深く関わりたい。もっといろいろな地域に足を運びたい。

【奮闘】高山義浩・県立中部病院医師 事業者とつながれたと実感 コロナ対策みんなで向き合おう

 新型コロナの感染が拡大する中で、行政、医療、介護、観光、飲食などさまざまな事業者が連携し、つながったという実感がある。専門家として歯車の役割を果たせたと思う。リスクの公共性を伝えるように心掛けた。どんなに気をつけても家庭や施設での感染はある。誰かの努力不足でなく、みんなで乗り越えるべき問題とお願いしてきた。

 ワクチンの有効性によっては、2021年の収束も期待できる。副反応の頻度など不明な点もあり、期待しすぎてはいけないが、春以降には接種が始まることで、活動再開の流れができるだろう。しかし、感染対策が終わるわけではない。

 みんなが感染症から身を守る方法を学び、どこにリスクがあるか確認できたはずだ。「本当に大変だったけれど、あれで沖縄県は感染症に強くなった」となることが目標だ。これからも沖縄社会は成長し、多様化し、交流は活発になっていく。たくさんの外国人観光客も訪れるだろう。その前哨戦を、逃げることなく向き合う気持ちが必要だ。

【希望】富田杏理・おとなワンサード代表 子ども支援で食料届け 短期間で沖縄の力の結集感じ

 県内にも住んでいた女児が、千葉で亡くなった虐待死事件にショックを受け、二度と起きてほしくないと思った。どう動いていいか分からずもんもんとしていた時、新型コロナで突然の休校が決まった。親も仕事に行けず、お金がなくなる中で子どもと家にこもればストレスがかかる。おなかがすけばイライラもする。おにぎり一つ、パン1個でも届けることが親のストレスを減らし、結果的に子どもへの暴力防止につながるのではと考えた。

 動き出すと、運営側として琉球新報社や日本郵便沖縄支社、県や市町村社協、食品を提供する企業、ボランティアと、気持ちのある人たちと奇跡的につながった。この短期間にこんな規模になると思わず、沖縄の力が結集したと感じた。

 この間、数万人分もの食を届け、今まで支援につながらなかった人ともつながれた。一方で雇用や行政手続きの難しさ、地域格差など動くほどに課題も見えた。必要なところに必要な支援を届ける仕組みをつくっていきたい。

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