日本ハムの今季を振り返る 中田&近藤がタイトル獲得も得点力、守備に課題【野手編】

日本ハムシーズンレビュー2020【画像:パーソル パ・リーグTV】

「レべチ」な活躍を見せた中田翔

チーム打率は.249でソフトバンクと同率の2位タイ。しかし、本塁打数はリーグワーストの89本、リーグトップのソフトバンクは126本で37本差、得点はリーグ3位の493ながら、2位のソフトバンクとは38の差があり、リーグ王者と同打率でも得点力の差があったのが実情だ。盗塁数もリーグ5位と、なかなか足を絡めた攻撃もできず、打率こそ悪くなかったものの、全体的なオフェンス力不足が垣間見えた日本ハム。シーズンレビュー後編は、打者に注目して2020年シーズンを振り返っていく。

そんななか輝きを放ったのが中田翔内野手だ。今季はオープン戦・練習試合から好調ぶりを見せつけると、開幕してからもここぞの場面で頼りになる勝負強さを発揮し、4番としてチームをけん引。9月10日には通算250号の大台に到達した。その後も「レベチ」な一撃を放り込み続け、120試合の短縮シーズンながらキャリアハイの31本塁打をマーク。楽天・浅村との壮絶なタイトル争いの末、初の本塁打王こそ逃したものの、108打点で3度目の打点王を獲得し、充実のシーズンとなった。

近藤健介外野手も、持ち味を十分に発揮した。昨季.422で最高出塁率のタイトルを獲得した好打者は、今季も卓越したバットコントロールと選球眼で出塁を量産。オリックス・吉田正、ソフトバンク・柳田とともにハイレベルな首位打者争いを繰り広げ、リーグ3位の打率.340をマークした。また、出塁率.465とほぼ2回に1回は塁に出る驚異的な成績で2年連続2度目の最高出塁率に輝いた。

切り込み隊長としてチームを引っ張ったのが西川遥輝外野手だ。新主将として臨んだ今季は開幕から好不調の波が少なく、安定したパフォーマンスを披露し、4年ぶりの打率3割をクリア。リーグトップの92四球を選ぶなど献身的な活躍も目立ち、出塁率.430とリーグ2位の42盗塁でリードオフマンとして素晴らしい活躍を見せた。ポイントゲッターとしても優秀で、得点圏打率はチームトップの.358をマーク。打はもちろんのことながら、足、勝負強さ、選球眼といったあらゆる面でファイターズ打線の力になった。

「直球破壊王子」の渡邉諒と攻守で魅せた大田泰示

渡邉諒内野手は、2年連続の規定打席到達で主力入りを果たし、キャリアハイの打率.283を記録した。「直球破壊王子」との愛称でおなじみの通り、そのバッティングは直球に滅法強く、数々の直球自慢たちを打ちのめした。

なかでも印象的だったのが8月8日の西武戦。7回裏、2死から味方が3得点を挙げて1点差とすると、満塁のチャンスで打席へ。直球自慢のギャレット投手に対し、最速162キロ、160キロ超が4球という全球直球勝負の末、9球目の160キロを捉えると、打球は三遊間を抜け、2者が生還。劇的な逆転勝利の立役者となり、「直球破壊王子」として名声を上げた。

大田泰示外野手も、3度目となる規定打席に到達。序盤こそ苦しんだものの、8月4日の西武戦で2本塁打6打点の大暴れをして以降、調子は上向きに。8月、9月には月間打率3割以上を記録するなど、打率.275、14本塁打68打点と結果を残した。俊足を活かした広い守備範囲と強肩でも存在感を示しており、捕殺数は7を記録。普段はライトでの起用が多いが、10月9日にはセンターとしてスタメン出場も果たすなど、来季以降に向けて新たなオプションも試しているようだ。

しかし、このあとに続く打者が誤算だった。主に6番・7番としてランナーを返す役割を期待された王柏融外野手、ビヤヌエバ内野手の両外国人が不調で苦しいシーズンに。また、3年目の飛躍が期待された清宮幸太郎内野手は、キャリアハイに並ぶ7本塁打をマークするものの、打率が1割台と低迷。得点力不足に大きく響く形となってしまった。

正捕手の固定にも苦しんだ。宇佐見真吾捕手がチーム最多の80試合に出場したものの、打率1割台、昨季は4割あった盗塁阻止率も.290と好守に力を発揮できなかった。昨季チーム最多の98試合に出場した清水優心捕手は、今季は69試合でこちらも打率1割台、失策8と悔しい結果に。チーム全体を通しても、守備率、失策数、捕逸数ともにリーグワーストと、ディフェンス面での綻びが低迷につながってしまったといえよう。

野村の潜在能力が開花中、清宮とともに若きアーティストが希望の星となるか

明るい材料もある。清宮は、キャリアハイの33四球を選び、出塁率は.300とそのアプローチには向上の跡が見られる。また、2年目の野村佑希内野手が開幕戦にプロ初スタメンで1軍デビューを果たすと、7月2日のソフトバンク戦ではバンデンハークからプロ初本塁打、さらに1点ビハインドの9回には守護神・森の直球を捉え、センターオーバーのサヨナラ打を放つなど、たぐいまれなる打撃センスを発揮。戦線離脱の期間こそあったものの、21試合で打率.257、3本塁打18打点を記録し、その天性の打撃センスと物怖じしないメンタリティには、大器の予感が漂っている。

5年目を迎えた平沼翔太内野手は、昨季から成績を落としたものの、52試合に出場。主に2番という好打順で経験を積み、9月24日から10月3日にかけて8試合連続安打を放つなどその打撃センスは確かなものだ。また、育成を経験した樋口龍之介内野手、高濱祐仁内野手がイースタン・リーグで好成績を残し、1軍でも出場機会を得た。

実績のある淺間大基外野手、谷口雄也外野手もイースタンでは打率3割を超え、結果を出している。また、2年目の田宮裕涼捕手が41試合に出場、終盤には1軍デビューでプロ初安打も放ち、正捕手争いに名乗りをあげた。イースタンで昨季11盗塁、今季は7盗塁の俊足と強肩が魅力的で、その甘いマスクにも注目だ。

今季の日本ハム野手陣は、主力とそれ以外の選手との力量差があった。また、ディフェンス面での引き締まりに欠けていた部分もあったと言えよう。しかし、野村、清宮をはじめ、ポテンシャルに長ける若手が多くの経験を積み、ステップアップの一年になったことは大きな収穫だ。これまで札幌ドームをホームとしてきた同球団だが、2023年には北広島市に「エスコンフィールド」という新球場が開業予定。残り少なくなりつつある札幌での本拠地開催で悲願の上位進出に向けて、得点力の向上は至上命題だ。(「パ・リーグインサイト」岩井惇)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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