リーグ最多32度の逆転負けを喫した楽天 今季の成果と課題を振り返る【投手編】

楽天シーズンレビュー2020【画像:パーソル パ・リーグTV】

プロ野球史上初「3球団で最多勝」完全復活した涌井秀章

2013年以来7年ぶりとなる日本一を目指し、「NOW or NEVER いまこそ 日本一のへ」というスローガンのもと戦い抜いた楽天。終盤の失速が響き4位という結果に終わったものの、チーム打率はリーグトップの.258を記録するなど来季への収穫もあった。本記事は投手を中心とした前編、野手を中心とした後編に分けて、各選手にフォーカス。上記の「パーソル パ・リーグTV」特集動画「シーズンレビュー2020」とともに、楽天の2020年シーズンを振り返っていく。

コロナ禍で開幕がおよそ3か月押し、120試合制、さらに同一カード6連戦という変則日程になった2020年シーズン。2年ぶりに開幕投手を任された則本昂大投手が白星を挙げると、楽天投手陣は抜群のスタートを切った。今季から抑えに配置転換された森原康平投手をはじめ、新戦力の牧田和久投手やシャギワ投手、昨季9勝を挙げた辛島航投手も中継ぎに回り、開幕5戦目まで無失点と盤石のリレーを披露。投打もかみ合って序盤戦首位をキープし、Aクラス入りは必至と思われた。

しかし、中盤以降徐々に投手陣が安定感を欠き、最終的にはリーグワーストの32度の逆転負けを喫するふがいない結果に。チームも4位に終わった。

そんな中、シーズンを通して先発ローテーションを守り続けたのが涌井秀章投手である。西武、ロッテと2球団を渡って今季から楽天に加入した涌井は、開幕から自身8連勝を挙げると、シーズン計11勝で最多勝を獲得し、プロ野球史上初の「3球団で最多勝」を達成した。2016年シーズンに10勝を挙げてから2桁勝利から遠ざかっていたことを考えると、期待値以上の結果を残したといえる。

8月5日のソフトバンク戦では、9回1死まで無安打に抑える好投を披露。惜しくもノーヒットノーランとはならなかったものの完封勝利を飾るなど、主戦としてチームを支え続けた。しかし、9月以降は10試合で3勝3敗、防御率5.08と不安定な結果に。来季はプロ17年目を迎える涌井。投手陣の柱として、則本昂大投手や岸孝之投手とともにシーズンを通して活躍し、東北の地で日本一を達成したい。

序盤は好投も…則本昂大は自身ワーストの防御率

昨季は右肘のクリーニング手術の影響で後半戦からの復帰となり、自身ワーストとなる5勝にとどまった則本昂。2年ぶりに開幕投手に復帰した今季は「20勝」を掲げ、人一倍チームの日本一に強い気持ちを持っていた。そしてその熱意は序盤、結果を伴う。ノーワインドアップの新フォームに適応し、開幕戦から3戦3勝、防御率0.87と誰もがエースの復活を確信しただろう。

しかし、シーズン中盤に入ると調子が下向きに。大量失点も目立ち、およそ1か月半にわたって勝ち星が付かない苦しい時期も続いた。投打がかみ合わない不運もありつつ9月以降失速するチームの流れを変えることはできず。18試合に登板して結局昨季と同じ5勝、防御率は自身ワーストの3.96と悔しさが残るシーズンとなった。

9月4日のオリックス戦では、3回裏終了後にベンチ裏で転倒して緊急降板、チームを一時離脱するなど投球内容以外でも反省点が残った。しかし、いつまでも引きずってはいられない。チームもファンも背番号「14」の完全復活を待っている。7年前はルーキーとして日本一を経験したが、今度は文句なしのエースとしてチームを頂に導きたい。

連敗が続き、チームが苦しくなってきたシーズン終盤に力を発揮したのが岸孝之投手だ。序盤は7月4日のロッテ戦で初登板初白星を挙げて以降、変則日程で調整が難しかったためか思うような投球ができず。7月20日に登録を抹消され、長期間チームを離脱した。しかし、9月20日のソフトバンク戦で約2か月半ぶりに2勝目を挙げると、そこから調子は上向きに。失速するチームを頼もしくけん引した。

圧巻だったのは、10月に入ってからの投球だった。6試合に先発し、2完投1完封を含む5勝0敗、防御率1.38。10月・11月度の月間MVPを受賞し、来季に大きな期待が持てる形でシーズンを締めくくっている。

先発、中継ぎ、抑え…すべてを経験した背番号「1」

今季から本格的に、クローザーから先発への配置転換を明言し、シーズンに臨んだ松井裕樹投手。守護神としての実績は申し分なく、まだ若いこともあって大きな期待が寄せられたが、自身開幕からの2戦でともに5回まで持たずに降板、その後はファームでの調整が続いた。

しかし、1軍復帰後は希望も見えた。8月27日の千葉ロッテ戦では、7回1安打11奪三振無失点と完璧に抑え、今季初白星をマーク。確かな手応えをつかんだ一戦となった。先発としては10試合に登板、51回2/3を投げ、3勝3敗、防御率3.66とまずまずの結果だったが、この経験は今後のキャリアで生きてくるに違いない。

10月以降は、チーム状況もあり中継ぎでの起用が中心となると、すぐに勝ちパターンの一角に。15試合に登板して失点した試合は2試合のみで、防御率も1.65と優れた数字を残した。また、そのうち2試合ではセーブも記録するなど、1シーズンで先発、中継ぎ、抑えすべてを務めた。経験値を高めて迎える来季、さらなる活躍が期待される。

慶応義塾大学からドラフト3位で入団した津留崎大成投手は、開幕から中継ぎとして登板し、9試合連続無失点と即戦力に相応しい働きを見せた。最終的には、33試合に登板して1勝1敗1ホールド、防御率4.19と1年目から十分な成績を残している。

ドラフト6位でHonda鈴鹿から入団した瀧中瞭太投手は、シーズン終盤に躍動した。ファームで結果を残して1軍昇格を果たすと、プロ初登板・初先発となった9月19日のソフトバンク戦では6回途中1失点と好投し、チームの勝利に貢献する。さらに10月11日の西武戦では、完封勝利まであとアウト1つという大健闘でプロ初白星。10月25日の千葉ロッテ戦でも7回無失点で2勝目を挙げるなど、来季以降の先発ローテーションの一角として大きく期待される。

1年目で存在感を見せ付けた両投手。初めて迎えるプロのオフシーズンで、どのような進化を遂げるか。来季のさらなる活躍に期待しよう。

リーグワースト32度の逆転負け…来季へ向けての強化ポイントは

今季チームは、8月中旬まで首位争いを繰り広げながらも、終盤に失速。10月以降は、「パーソル CS パ」進出へ負けられない上位チームとの直接対決で勝ち切れず、Bクラスに甘んじた。リードしても試合中盤以降に追いつかれ、逆転を許す試合が目立ち、実際、逆転負けはリーグワーストの32回。来季へ向けて、この課題をどのように克服するか。

まずは、先発投手。今季先発ローテーションを守り抜いたのは、涌井のみだった。先発の柱として期待された則本と岸は、不調や怪我に苦しみ、シーズン通しての活躍とはならなかっただけに、来季はこの先発3本柱を軸として戦っていきたいところだ。また瀧中や石橋、弓削ら若手投手の台頭にも期待したい。

中継ぎ陣は、盤石の勝利の方程式を築くことが必須だ。今季は森原がクローザーに配置転換となるもシーズン途中から不調に陥り、セットアッパーを務めていたブセニッツが代役に。しかしそれもうまくいかず、逆転負けが続いてしまった。

また、昨季までブルペンを支えていたハーマンや高梨が他球団に移籍したことで、中継ぎ陣の顔ぶれも一新した今季。新戦力の牧田や酒居の加入や、先発を務めていた辛島や安樂も中継ぎに配置転換されるなど、試行錯誤を繰り返したが、勝ちパターンの確立とまではいかなかった。ここ数年の課題となっている終盤の失速を最小限に抑え、1年間戦い続けるために、安心して終盤を任せられる投手を増やしていきたいところだ。(「パ・リーグ インサイト」小野寺穂高)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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