「サッカーコラム」サッカーのスタイルは1つではない G大阪が見せる現実的サッカー

G大阪―徳島 後半、混戦から押し込み先制ゴールを決めるG大阪・パトリック(18)。GK上福元=パナスタ

 自チームがボールを支配して、パスをつなぐ。いわゆるポゼッション・サッカーが隆盛を極めている。一つのトレンドがはやると、わが国の人々は何の疑いも持たずに取り入れてしまう傾向が強い。ただ、中には「それはどうなの」と思うことも多々ある。

 元日本代表の選手が、こういうことを話していた。育成年代の試合で、センターバックの選手がフリーになっているトップの選手を見つけてロングパスを狙った。パスは、たまたまズレてつながらなかった。すると、監督が「なぜショートパスをしないのだ」とその選手をしかり、交代させてしまったという。その監督にとっては、得点になるチャンスにチャレンジをすることよりも、ボールを失わないほうが大切らしい。

 育成年代の指導者がポゼッションばかりを重視するあまり、この頃の若手にはゴールに直結するロングパスを出せる選手が極端に減った気がする。少し前までは戦術眼に優れ、一発で局面を変えられる選手がたくさんいた。中田英寿や中村俊輔、小笠原満男、小野伸二などだ。そして、今季限りでJ1川崎の中村憲剛が引退してしまう。この種の選手は絶滅危惧種になってしまうのだろうか。

 これらの選手に共通しているのは、高校の部活動上がりということだ。優秀な選手だけで構成されるJクラブのアカデミーと違い、高校のチームは必ずしも選手の粒がそろっているとはいえない。苦境に陥ったときに「この選手に任せておけば」という存在は、レベルの違いこそあれ高校チームには大体いる。

 ポゼッションを美徳と考える指導者の中には、それ自体が目的となっている人も少なからずいる。アンダーカテゴリーのワールドカップ(W杯)の試合に挑む日本代表でも少し前まで、こんなシーンがよく見られた。負けているのにもかかわらず安全なパスをつなぐだけで、勝負に出ない。サッカーの目的から外れているのではと思わせることがよくあった。

 「ボールを失わない」という方法論が目的になってはいけない。サッカーの目的はただ一つ。ゴールを守り、ゴールを奪う。その上で相手をスコアで上回ることだ。その目的にたどり着くための方法は数多くある。

 勝利という目的のために戦い方を徹底させる。その意味で今シーズンのG大阪は、一つの戦い方を示したのではないだろうか。相手にボールを持たれても、最終的に勝てばいい。ゴールマウスにリーグ屈指のGKがいて、守備ラインも固いという裏付けがあるからこその戦い方。J1では先制点を奪った試合に限れば逆転負けはなし。18試合で15勝3分けの結果を残した。だからこそ、守りを安定させて少ないチャンスを生かすと割り切れるのだろう。

 12月27日に行われた天皇杯準決勝。J2を制した徳島との対戦でもそれは見られた。スペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督の下、GKも含め最終ラインから丁寧にボールをつなぐサッカーを展開する徳島。いわゆるボールを保持するためにだけつなぐのではなく、ゴールを奪うために前方へパスを入れるサッカーは、見ていて楽しめる。来シーズンのJ1でも十分に期待を持てるだろう。とはいえJ1で2位のチームから見れば、徳島はあくまでも格下。G大阪が力でねじ伏せるのかと思っていた。

 立ち上がりこそG大阪の速い寄せに徳島の選手らも戸惑った。ところが時間が経過するとともに適応していく。開始10分にはGK東口順昭にセーブされたが、垣田裕暉がシュートを放つなどゴールに迫るプレーも見られた。

 その後は徳島がボールを保持する時間が続く。その中で、G大阪のチャンスは前半終了間際の渡辺千真のシュートを始め、数えるほど。J1とJ2の格の違いを感じるほどの内容ではなかった。

 チャンスの数は同じくらい。それを決めるのと、決められないのとの違いがカテゴリーの差なのかもしれない。後半に入り、G大阪は8分に左サイドから倉田秋がシュート。GK上福元直人がファンブルしたことで混戦となり、最後はパトリックが押し込んで先制。先行逃げ切りのお膳立てをした。

 徳島も反撃に出て好機をつくる。後半19分には西谷和希がスライディングシュートを放ったが、これもGK東口にセーブされる。

 1点のリードを保ちつつ、チャンスがあれば追加点を狙う。G大阪はその筋書きを見事になぞる。後半37分、パトリックのポストプレーから右サイドを抜け出した21歳の福田湧矢がGKの頭上を抜く追加点。交代出場してのファーストタッチでゴールを挙げた。

 スコアだけを見れば順当と言える2―0の完勝。しかし、G大阪のボール支配率は徳島の59パーセントに劣る41パーセントだった。そしてシュート数も徳島の15本(枠内8本)よりも少ない13本(同11本)の結果だった。それでも、この内容を良しとして試合を進められるのであれば、それはチームの戦い方のスタイルといえる。

 宮本恒靖監督も「プラン通り。守備の時間が長くなることを考えながら」と試合を振り返っていた。それを思えば現在のG大阪は、1―0をサッカーの美徳とするイタリア的なメンタリティを備えつつあるのかもしれない。

 ポゼッション、確かに良い。ただ、サッカーのスタイルは一つではない。さまざまに特徴あるチームが集っているからこそ楽しいのだ。2021年、見る側にとっては興味深いチームが数多く出そろって、リーグを盛り上げてほしい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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