北朝鮮で急増「詐欺ネタ」として利用される金正恩氏

北朝鮮は、自国内で起きた犯罪に関する統計を一切公表していないため、多いのか少ないのかもすら確認できない。しかし、脱北者や国内に住む人から漏れ伝わる情報で、ある程度の状況をうかがい知ることはできる。

たとえば咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は2013年2月、会寧(フェリョン)市内で被告18人に対する公開裁判が行われたが、うち8人は詐欺行為を犯した者だったと伝えた。詐欺行為については、ほかにも様々な情報が伝えられており、北朝鮮国内でこうした犯罪が少なからず起きていることを推し量ることができる。

一方、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の平安北道(ピョンアンブクト)の幹部情報筋が伝えた最近の詐欺の手口は、非常に大胆なものだ。

その手口とは、あろうことか最高指導者(金正恩党委員長)の「マルスム(お言葉)貫徹事業」を委任されたと騙り、偽造された信任状を見せて、金品を騙し取るというものだ。最高指導者の権威を傷つける行為は、北朝鮮で最大の重罪とみなされる。

現地の別の情報筋も、最高指導者のニセの委任状、身分証を使った詐欺行為が増えており、これらの事件は体制を揺るがしかねず、政治的犯罪として扱うべきとの指示が、中央から司法機関や地元の党機関に下されたと伝えた。

清津(チョンジン)では今月初め、無職の男性が住民に「自分は中央から来た幹部だ」と語り、ニセの委任状を見せて詐欺を働こうとして逮捕される事件が起きている。

地元当局は、パソコンとプリンターを所有している機関、店舗を対象に、信任状や身分証の偽造にも使われている可能性があるして、取り締まりを始めた。また、未登録の機器を所持していれば処罰対象になると警告し、登録、利用状況について点検し、犯罪行為に使われないように措置を取るよう指示を下した。

「中央は、パソコンと印刷設備が日々発展する状況で、利用体系を正さなければ今後偽札、反体制ビラ、ニセの身分証など、犯罪行為が増加する可能性があると指摘した」(幹部)

前述の清津の事件と関連して当局は、無職男性からカネを受け取り、ニセの委任状を印刷した写真館の設備をすべて没収したという。写真館のオーナーも逮捕され、2人とも労働鍛錬隊送りとなった。懲役6ヶ月程度で済まされたことを意味するが、犯した罪の重さに比べれば比較的軽い処罰と言えよう。ちなみに刑法298条から301条では、個人財産の恐喝、詐欺、横領、略取について定めていて、最高刑は12年以下の労働教化刑(懲役刑)だ。

写真館に対しては、今月4日の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想・文化排撃法」に基づいて、取り締まりが行われている。禁書や反政府的な文書の印刷に使用されるおそれがあるとの理由からだったが、取り締まりには清津での事件が影響している可能性も考えられる。

市民は、これらすべてが生活苦のせいだ、対策を立てなければより深刻な事件が起きかねないとして、当局の市民生活への積極的な対策を求めている。

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