経済活性化の起爆剤に 「出島メッセ長崎」11月開業 利用目標 年61万人

11月開業に向け建設が進む「出島メッセ長崎」(手前中央)。奥に隣接するのは新幹線ホームが整備中のJR長崎駅、橋を挟んで右は県庁=長崎市(小型無人機ドローン「空彩4号」で撮影)

 長崎市がJR長崎駅西側で整備を進めるMICE(コンベンション)施設「出島メッセ長崎」が、11月1日に開業する。昨年来の新型コロナウイルス流行で需要の先行きに不透明感も漂うが、市や運営会社は年間利用者61万人の目標達成に向け、MICE誘致や受け入れ態勢の強化に力を注ぐ。市民の賛否が割れる中で整備が決まった大型施設は、人口減少に歯止めがかからない県都の交流人口拡大と経済活性化の起爆剤となるか-。

 中国の孔子を祭る観光名所「長崎孔子廟(びょう)」(大浦町)。昨年11月13日夜、懇親会場に衣替えした広場に円卓や飲食ブースが並び、コロナ対策のフェースシールドを着けた地場企業などの関係者約50人が集まった。
 十八親和銀行(長崎市)を傘下に置くふくおかフィナンシャルグループが、学会や大会などのMICEを飲食、物販、印刷物などの受注につなげようと進める企業向け勉強会の一環。MICE後の交流会や観光を指す「アフターコンベンション」の“実験”で、孔子廟を懇親会場にしたのは初めて。勉強会を受講する68社のうち飲食、生花、照明などの7社がお膳立てした。
 田上富久市長があいさつし、2021年の長崎開港450年に触れ「交流の歴史が貫く長崎でMICEは新たな交流の形になる。皆さんのチャレンジが町を切り開く」と強調。学会誘致に携わる長崎大の河野茂学長はこう言って乾杯の音頭を取った。「学会の成功は懇親会次第。こういうのが大好きなんです」。参加者は中国の伝統芸能「変面ショー」なども満喫した。

長崎孔子廟でアフターコンベンションの“実験”をする企業や市の関係者=昨年11月13日、長崎市

■消費単価2.5倍

 市によると、ビジネス客であるMICE参加者の消費単価は一般観光客の2.5倍とされる。魅力的な客層だが、長崎ブリックホール(大ホールは約2千席)など市内既存施設の受け入れ能力には限界がある。22年秋には九州新幹線長崎ルートが暫定開業予定。長崎駅直結の好立地が売りの出島メッセ長崎を核に、歴史や医学、食などの資源も生かして交流人口を拡大、地域に金を落とす-。市はこう青写真を描き、長崎国際観光コンベンション協会などと共に誘致や受け入れ準備を進める。
 長崎商工会議所などは故・伊藤一長市長時代の06年に県や市にMICE施設整備を提案するなど長年、施設の必要性を訴えてきた。07年に就任した田上市長は11年から整備の検討を本格化。“箱物”という市民の批判もあり、市議会での関連予算案否決、住民投票の動きなど曲折はあったが、最終的に19年8月、建設着工に至った。

■九州一の広さ

 地上4階、地下1階、駐車場を含む延べ床面積約3万4千平方メートル。九州一広い平土間のコンベンションホール(約2700平方メートル、3千人収容)、同市初の本格的なイベント・展示ホール(約3800平方メートル)、大小24の会議室を備える。
 市が用地購入を含め総額216億円を投じて建設。九電工やMICE専門業者「コングレ」などが出資する「ながさきMICE」が20年契約の独立採算制で運営する。併設の高級ホテル「ヒルトン長崎」(200室)は福岡に次いで九州2カ所目の進出となる。
 20年はコロナ感染防止のため、MICEの中止や延期が全国で相次いだ。九州では、熊本城ホール(熊本市)のメインホール(約2300席)の利用が「20年夏までほぼゼロ。秋から徐々に戻ってきた状況」(担当者)。最大3千人収容のホール機能を持つ福岡国際会議場(福岡市)の稼働率も19年度の8割に対し、20年度は2割となる見通しだ。
 出島メッセ長崎は年間のMICE開催件数775件、利用者61万人、経済波及効果114億円が目標。コロナに関わらず、「達成しないと収支が合わない」(コングレ九州支社)ため必達という。
 コロナ対策では「1人1時間当たり30立方メートル」という国推奨の換気基準を十分満足する設備を備え、需要が高まるオンライン併用の会議やコンピューターゲームの腕前を競う「eスポーツ」大会でも通信障害が起きにくいように大容量の光ケーブルも複数敷設する。
 社会的距離の確保で1回当たりの参加者が減っても「逆に今まで手が出なかった大規模MICEを誘致する好機にもなる」「『実際集まって話すことが大事』との声があり、リアルの需要はなくならない」。市やコングレはこう強調する。

長崎市の「出島メッセ長崎」を巡る経過

◎19年のMICE参加者は42万人

 長崎市の統計によると、新型コロナウイルス流行前の2019年の市内でのMICE開催件数は、前年比33件増の1619件、参加者数は8万7千人増の42万6千人と、過去5年で最多だった。20年はコロナ禍で大幅に減る見通しだが、市交流戦略推進室は19年の実績は「近年、MICE誘致を強化してきた成果」としている。
 統計は長崎ブリックホールや市民会館、スポーツ施設、ホール、ホテルなど約40施設を中心とした合計。
 参加者の主な内訳は「学会・大会、一般会議など」が22万7千人(開催件数1215件)、プロ、アマチュアの大会など「スポーツ」が17万人(306件)。ローマ教皇来崎に伴う3万人規模のミサが全体を押し上げた。スポーツ以外のMICEでは、参加者300人未満が87%を占めた。
 出島メッセ長崎が目標とする年間61万人の利用内訳は「学会や国際会議、大会、一般会議など」が20万6千人(722件)、「イベント・展示」は40万4千人(53件)。開業から最初の1年間については、20年11月時点で目標人数の53%を達成する見通しが立っているという。
 24年度までに開催が決定、内定、調整中の大きめのMICEは、21年11月の全国スーパーマーケット協会全国大会(千人規模)、22年10月の中小企業団体中央会全国大会(2500人規模)など約50件。

© 株式会社長崎新聞社