和牛の繁殖「スマート化」 クラウドでカルテ共有 発情・出産、スマホに通知

管理する子牛の血統などを調べる山田場長=西海市大瀬戸町

 人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)などを利用して、省力化や高品質な生産を目指すスマート農業が注目を集めている。長崎和牛の繁殖現場でも先端技術の導入が進んでおり、JA長崎せいひの子会社、大西海ファーム(西海市)では飼育牛の管理台帳をデジタル化。母牛の発情や出産の兆候を捉える装置を取り入れ、規模拡大を目指している。
 「ここには紙の台帳は存在しません」。肉牛部門場長の山田康弘さん(56)はタブレット端末に、目の前にいる牛の飼育歴を表示させた。血統や出産・治療履歴、体重など一頭一頭の「カルテ」をインターネット上のクラウドサービスを活用し5人の従業員で共有している。
 同社は養豚のほか、2017年から和牛の繁殖を開始。現在約120頭の母牛を管理し、生まれた子牛は同JA管内の肥育農家に委託、これまで220頭以上を送り出した。ワクチン接種など必要な作業をスマホに通知する機能もあり「作業漏れを防ぎ、作業効率もよくなる」(山田さん)。
 従来は担当者の経験や勘に基づき判断していた母牛の発情や出産の兆候も、行動や体温を捉えるセンサーの記録をAIが分析し、スマホに知らせが届く。

発情の兆候を検知する首輪を付けた母牛

 発情が近づいた母牛は食事や休息などの行動が変化する。牛の首につけた加速度センサーが変化を捉えると従業員に通知が届き、人工授精の準備を始める。牛の発情は約21日周期。見逃すと次の発情までの飼料代や人件費がかさみ、作業工程も見直さなくてはならない。
 出産の兆候は体内に入れた温度センサーが検知。牛は分娩(ぶんべん)前に体温が下がる性質があり、それを捉えるとスマホに「出産準備」の知らせが届く。さらに分娩が進み破水すればセンサーが体外に押し出される仕組みで、センサーの温度は外気と同じに。担当者は牛舎に駆け付ける。出産用牛舎にはカメラも備え付け、牛の様子をリモートで確認できる。

出産の兆候を担当者に知らせる通知(画面の一部を加工)

 機器の導入で、出産時の当直など長時間労働が解消。生きもの相手で休暇が取りづらいとされる畜産業だが、同社では月8日以上の取得が可能になった。2月からは建物を増設し母牛の頭数は倍以上に増える。山田さんは「生きものなので一つの作業漏れが命に関わることもある。スマート化がなければ規模拡大は不可能」とし、「効率化を若い世代の就農につなげたい」と話した。
 県畜産課によると繁殖牛を飼っている農家は19年4月時点で約2300戸。出産を体温で検知する装置は昨年4月時点で少なくとも126戸が導入。国の農林漁業者向け新型コロナ対策事業の「経営継続補助金」を活用し、スマート化に乗り出す事業者もいるという。

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