胸躍る新たな人生の幕開け 東京⇒佐世保 コロナ禍の地方移住

 新型コロナウイルスの感染拡大は、都市部への人口集中についても見直しを迫る。テレワークの普及で、仕事を求めて大都市に流れた人々の地方回帰が広がりつつある。東京のデザイン会社「カールデザイン」の代表、安藤晃義さん(50)も、アフターコロナを見据え移住を決意した一人。この春、長崎県佐世保市を中心とする「西九州させぼ広域都市圏」に軸足を移し、創作活動を始める。

佐世保市の町並みを見渡す展望所でサポートプラザの職員に移住を決めた思いを語る安藤さん(右)=佐世保市、天神山公園

 昨年12月4日。安藤さんは、市の移住支援職員の案内で佐世保の町並みを見渡す展望所に立っていた。「いよいよ始まる」。心地よい風を受け、新たな人生の幕開けに胸を躍らせた。
 東京都出身。都内の創形美術学校でデザインを学び、卒業後、壁画やアパレルなどの仕事を手掛けた。「将来は海外の落ち着いた環境で感性を磨きたい」と考え、欧米やアフリカ、アジアの国々を巡り未来の拠点を探し続けた。
 1999年にイラストレーターの妻で、同じく東京出身の小堀敦子さん(50)と現在の会社を設立。プライベートでは2人の娘をもうけた。ソニーのパッケージの企画など、大手企業から続々と依頼が舞い込み、寸暇を惜しんで働いた。
 その「ツケ」だったのか。2012年1月。公園で家族と過ごしていると、背中に鈍痛が走った。病院へ救急搬送され、肝臓大動脈瘤(りゅう)破裂と診断された。緊急手術の末、一命を取り留めた。ふと思った。「仕事に追われる日々を自分は望んでいたか」。働き方を見直し、50歳までに東京を離れると決めた。
 東南アジアに拠点を移すつもりだったが、コロナ禍で海外渡航が難しくなり、国内にも目を向けた。昨年3月、家族を連れ、キャンピングカーで親戚がいる島根県などを巡った。居心地は悪くなかったが、知人から薦められた佐世保市の存在が気になり、九州に足を伸ばした。

佐世保市を中心とする西九州させぼ広域都市圏

 佐世保市では世界遺産の黒島や市街地を見て回った。自然と人が調和した雰囲気が、どこかスペインの港町に似ていると思った。展望所から九十九島の夕日を眺め、「ここだ」と直感した。

 6月に1人で再訪。市の「西九州させぼ移住サポートプラザ」の支援を受けて1カ月ほど滞在し、テレワークを試した。広域都市圏の枠組みを知り松浦、平戸両市などでも物件を探索。波佐見焼など特産品の魅力にも触れ、「デザインに対して感度が高い人が多い」と驚かされた。
 悩んだ末、佐世保市指方町の古民家を借りた。アトリエに使える広い和室が気に入った。敷地には畑もあり、自然とデザインを融合した民泊事業もできそうだ-夢は広がる。

佐世保市への移住を決めた安藤さん(右)と家族(安藤さん提供)

 まずは1人暮らしから始め、1年後には家族を招く予定だ。「地域と共に感性を磨き、世界に発信する仕事をしたい」。若い頃に描いた未来。安藤さんは今、そのスタート地点に立っている。


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